シネマ・ジャンプストリート

劇場公開映画を中心にレビュー 映画の良さと個人的感想を。

☆9『線は、僕を描く』

『線は、僕を描く』




~あらすじ~
大学生の青山霜介(横浜流星)は、絵画展設営のアルバイト中に水墨画と出会い、白と黒のみで表現される世界に魅了される。水墨画家として知られる篠田湖山に声をかけられたことをきっかけに、霜介は水墨画を学び始める。真っ白な紙に筆と墨だけを使って描かれる芸術を知るにつれ、彼は次第に深遠な水墨画の世界に引き込まれていく。
(シネマトゥデイ引用)




9/10★★★★★☆☆☆☆

以下 レビュー(ネタバレなしです!!)

【作品背景】

水墨画に魅了される大学生の成長と再生を描く、砥上 裕將(とがみひろまさ)さんの2019年の小説が原作で、また週刊少年マガジンにてコミカライズ版も過去に掲載された事のある作品の、実写映画化作品になります。

そんな作品の監督を務めるのは、『ちはやふる』シリーズなどの小泉徳宏さんが監督を務めます。

『ちはやふる』シリーズも、同名の漫画を原作にしながら、「瑞々しい映像」と、「静」と「動」を巧みに扱う演出技術、そして何より「競技カルタ」という題材要素と登場人物の物語を巧みにリンクさせる物語構成力が素晴らしく、映画史に残る傑作青春映画を産み出してくれました。

特にシリーズの締めとなる三作目は、三作の要素と、「百人一首」の要素を絡めて、「青春」の奇跡を捉えてみせ、その年ベスト映画に上げたくらい大好きな作品でした。

そんな小泉監督が、「水墨画」をテーマに青春映画を撮るという事で、楽しみ満点で見てまいりました。



【感想(ネタバレなし)】


期待通り、最高でした!!!

日本において青春映画を撮る人って多々いると思うんですが、「映像の瑞々しさ」「繊細さ」という観点で、頭一つ二つ抜けてるなと感じました。

それは、単に映像が綺麗って部分だけでなくて、
例えば、どのタイミングで、どの部分をクローズアップして、どういう動きを集中的に見せるか含め、めちゃくちゃ繊細に作り上げてて、それが一連の流れで瑞々しさを作りつつ、観るものの感情を自然に誘導していく魅了があります。

その中で、音使い、もっというと「無音」の使い方が印象的て、映画に入り込ませる演出が、ずるいぐらいうまいなと感じました。


本作の色となっているのが、「水墨画」の存在。

水墨画の奥深さ、例えば繊細さと豪華さ、黒と白の間のグラデーション、そこにある個性などを、映像的に見せてくれて、同じく初めて水墨画に触れる主人公と同様に、その魅了に触れ、無茶苦茶感動しました。

ただ、勿論、水墨画の奥深さだけを描く映画って訳ではございません。

本作は、横浜流星さん演じる主人公や、清原果物耶さん演じる天才少女をはじめ、彼らを取り巻く師匠や兄弟子など、彼らそれぞれの想いや悩みなど背景がしっかり届く映画になっています。

特に主人公は、かなり悲痛な人生の闇を持っていて、牢屋に閉じこもっている状態で、それが後半にいくにつれて、次第に明らかにもなっていきます。

そんな登場人物、それぞれの水墨画は、素人の我々にも感じる違いがあり、それが映像で表現されている面白さがありつつ、テーマ的にも非常に深く関わってくる事になります。

どう言うことかというと、
水墨画の線が持つグラデーションは、「日々変わる人生」のようである。
更に言うと、そこにその線に「命」を吹き込めるかが、画家の資質だと。
つまり、「自分にとっての水墨画」に向き合う事は、人生と向き合う事、しいては今を受けいれる事に直結する...そんな水墨画の性質を生かして魅せて各キャラクターの成長に還元させる展開が、これぞ「小泉監督」の映画で、素晴らしかったです。

もっと言うと、見ている我々にとっても、燻ってる今を、水墨画という芸術を通して肯定してくれる。そんな映画でもある。

特に後半は、煌びやかで繊細な映像/音楽による爆発と、水墨画の性質を活かしてキャラクターの成長に還元する展開が重なり、エモーションを爆破的に掻き立てる小泉監督の術中にハマり、涙が止まりませんでした。

登場人物、横浜流星さんや清原果耶さんのキャラクターに入り込んでいる感じは素晴らしかっですし、師匠の三浦友和さんや、兄弟子の江口洋介さんも存在感抜群で、めちゃくちゃ良かったです。

超オススメです!!!
  1. 2022/11/02(水) 13:25:02|
  2. 2022年公開映画
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☆8『もっと超越した所へ。』

『もっと超越した所へ。』



~あらすじ~
衣装デザイナーの真知子(前田敦子)は後悔しない恋愛を求めながら、ストリーマーの怜人(菊池風磨)を養っている。元子役のタレント・鈴(趣里)は父親の会社で働いている金持ちの富(千葉雄大)と暮らし、自己中心的な彼にかいがいしく世話を焼いている。そんな真知子や鈴、ショップ店員の美和(伊藤万理華)、風俗嬢の七瀬(黒川芽以)らダメ男と付き合う4組のカップルに、あるとき危機が訪れる。
(シネマトゥデイ引用)




8/10★★★★★☆☆☆

以下 レビュー(ネタバレなしです!!)

【作品背景】

根本宗子さんが主宰し、作、演出を務める劇団「月刊 根本宗子」で、2015年に上演された舞台を元にした作品。

根本宗子さん本人が映画向けに新しいアイデアを組み込みつつ再構築する形で脚本を描き、監督を『傷だらけの悪魔』の山岸聖太さんが務めます。
元々はミュージックビデオを多く手掛けた方で、長編映画としてら2作目になるんですが、彼のルーツ故の手腕が十二分に発揮された映画に仕上がっています。

本作は、ダメ男と交際する女性、合計4組8人の男女が登場する群像劇の形を取っており、その面々が非常に多彩で豪華です。
前田敦子と菊池風磨を筆頭に、趣里と千葉雄大、伊藤万理華とオカモトレイジ、黒川芽以と三浦貴大など、全員がタイプが全く違って印象に残るキャラクターを演じており、その辺りも注目すべきポイントです。



【感想(ネタバレなし)】


面白い!!

4種類の「ダメ男」との関係を、翻弄される側の女性目線で描く群像劇。

四者四様に「ダメ男」のタイプが全く違って、ある人は「自尊心が強かったり」、ある人は「優しさの押し付けだったり」、そのどれもがあくまでカッコ付きで....特に男性に多いかもしれないイヤーな所をリアルに誇張していて、ずっと観てられる。

見終わった後に、「誰が1番ダメ男か」で盛り上がれる映画になっています。


そんな四組四様の男女を描く群像劇なので、映している対象を切り替えながら、映画として一本の軸をもって進めて行くのですが、その描き方がめちゃくちゃ秀逸。

どういうことかというと...
4組のやり取りをハイテンポで切り替える中で、一つ一つの物語は独立して進んでいるんですが、そこに内包するテンションは常に同期して変化する事で、映画全体で観るとテンションが何倍にもなる...そんな爆発力のある映画になっていて、問答無用に楽しい映画になっていました。


また、同じ「ダメ男」でも、表面的な所から明らかな人と、そうじゃない人ってのがいて、本作は映画的な時系列操作を使う事で、人によって「ダメ男」っぷりが浮かび上がるタイミングを変化させ奥行きを作ってるっても、巧みでした。


次第に、女性側の逆襲展開が色濃くなるんですが、そうすると物語上「歩み寄り努力の欠如」をはじめとする女性側の行動のモヤモヤを感じる所が多々あります。
多々あるなーなんて思いながら見ていたら...それを逆手に取ったクライマックスの切り口。
これが痛烈で、しかも「泣き寝入りの推奨」に見えかねない所を、【ある演出】によって回避してるバランス感覚...これには、ぐうの音も出ん。

全方位的に良かったかと言われるとそうでもない所もあります。
本作の四種四様男女のストーリーが重なり、テンションをインフレしていくみたいな所が、面白さや楽しさを作り出しているのは間違いない一方、「クズレベル」が結構違う中で一様に処理しちゃってる違和感、モヤモヤは残る作品でもあるなと感じました。


ただ、役者陣も素晴らしく、全然面白さの方が上回ります!

オススメです!!
  1. 2022/10/19(水) 15:24:30|
  2. 2022年公開映画
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  4. | コメント:0

☆9『さかなのこ』

『さかなのこ』



~あらすじ~
毎日魚を見つめ、その絵を描き、食べ続けても飽きないほど魚が大好きな小学生の“ミー坊”。わが子が少々変わっていることを父親が心配する一方で、母親は彼を温かく見守り応援している。高校生になっても相変わらず魚に夢中なミー坊は、町の不良とも仲が良く、いつの間にか周囲の人々の中心にいるのだった。やがて、一人暮らしを始めたミー坊(のん)はさまざまな出会いを経験し、自分だけが進むことのできるただ一つの道を突き進んでいく。
(シネマトゥデイ引用)




9/10★★★★★☆☆☆☆

以下 レビュー(ネタバレなしです!!)

【作品背景】

魚類学者でタレントの「さかなクン」が、自身の幼少期や、魚との出会い、友人との出会いを語ったエッセイを元に、彼の「半生」を捉える「伝記映画」の形に仕立てられた本作。

監督を務めるのは、名作『横道世之介』や『子供はわかってあげない』などでお馴染みの、沖田修一監督!
大好きな監督の1人で、酸いも甘いも含んだ日常をコミカルに包んで「にっこり微笑みかける」 唯一無二の空気感のある映画を撮る監督さんです。
本作でも、一面的ではなく、「ドライな事実」を無茶苦茶しっかり捉えてるんだけども、それを含めて愛おしさが支配する、沖田修一監督らしさが全開で、その辺りを後ほど語っていきます。

また本作、注目を集めた点としては、「さかなクン」を、『あまちゃん』や『わたしを食い止めて』の、のん(能年玲奈)が演じている点です。
性別が違う人が演じるというのを、この作品はどう扱っているのか...此方もまた後述します。

また、のん以外にも、柳楽優弥や夏帆、磯村優斗など、実力派の役者さんが脇を固めています。



【感想(ネタバレなし)】


いやー無茶苦茶良かった...

「さかなクン」=「ミー坊」の圧倒的な魚への愛、「好き」を如何にして貫いて、「好き」が如何にして今の立場を気付き上げたのか...それを幼少期からのエピソードを通して追っかけていく映画になっています。

本作、特に学生時代までの前半が顕著なんですけど、非常にコミカルに進んでいくんですが、そのコメディ要素がまずめちゃくちゃ面白い。

ミー坊を中心に、個々の「感性の違い」と、そこに生まれる「勘違い」や「気まずさ」を、一歩引いた客観的な目線から、絶妙な間で切り取る、そんな沖田監督のコメディセンスが至る所に散りばめられていて、ずっとニヤニヤして見てられる、そんな映画になっていました。


ただ、この映画、ずっと違和感があって...

例えば、ただ地方のヤンキーの描き方が、コメディに寄せすぎてる、作品にとって、ミー坊にとって都合良すぎる...

そもそも、「好き」を貫く事が、「成功」につながるって、綺麗事過ぎないか...

「好き」を貫くミー坊の、キャラクター性やアイデンティティが、「成功」に繋がる理由として強引に物語を進めるのかな...と思って見ていると...

まさかまさかのミー坊にとって「都合良すぎる」と表現した、他者に依存する所という要素が、益々立ってきて、そこへどんどん暖かい目線が向けられていく。

つまり、【人を活かすも殺すも人】というメッセージの下で、さかなクン側の視点による、「さかなクンをさかなクンたらしめた」周りの人への感謝のラブレターのような映画になっていました。

そしてさらに凄いのは、それを強調するかの如く、「好きを貫いても成功出来ない人」や、「好きが無くて、何かにしがみつくしかない人」など、万人がさかなクンみたいになれる訳ではないという、めちゃくちゃドライな視点も含まれるんですよね。

ゆえに、「自分を貫く事」を是とする理想の第三者目線の映画ではなくて、それを貫けるかはある意味「運」で、「他者に寄る所」が大きい事をしっかり認めてるのが無茶苦茶伝わるさかなクン目線の映画になってるのが、すげぇ良いなって思ったし、だからこそ心震えました。


また、今回さかなクンを性別が異なる「のん」が演じた点について、物語の中に一つのテーマとして「性別」が描かれ関連づけられるのかな?と思っていたら...

「性別」いう要素が物語の中で全くフォーカスされてません。

つまりこの映画のは更に一つ上のステージに立ってて、「性別の選択に、理由なんて必要ないでしょ?本質が描かれれば別にどっちだって良いでしゃ」という距離感で扱っていて、この距離感がめちゃくちゃ良いなと感じました。


沖田監督の代表作がまた増えました!
オススメです!!
  1. 2022/09/13(火) 19:35:59|
  2. 2022年公開映画
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☆6『ソー:ラブ&サンダー』

『ソー:ラブ&サンダー』



~あらすじ~
壮絶なバトルの末、宇宙に旅立ったソー(クリス・ヘムズワース)は、すっかり戦いから遠ざかっていた。ある日、神殺しをもくろむ強敵ゴア(クリスチャン・ベイル)が出現し、ソーと新たに王となったヴァルキリー(テッサ・トンプソン)が応戦するものの、ゴアの前に全く歯が立たなかった。そこへマイティ・ソーのコスチュームをまとったソーの元恋人ジェーン(ナタリー・ポートマン)が現れ、ソーとヴァルキリーに協力する。
(シネマトゥデイ引用)




6/10★★★★★☆

以下 レビュー(ネタバレなしです!!)

【作品背景】

『アベンジャーズ』シリーズなどマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の29作目になる本作。

北欧神話の神をベースにしたヒーロー、「マイティ・ソー」の単独作としては、ユニバース中最多の4作品目となるのが本作です。

前作『マイティ・ソー バトルロワイヤル』が2017年に公開されて以来の単独作で、MCUアッセンブル作品であり一つの集大成であった『アベンジャーズ/エンドゲーム』後、いわゆるフェーズ4の作品としてははじめての作品です。

監督を務めるのは、『マイティ・ソー バトルロワイヤル』に引き続き、タイカ・ワイティティ監督。
『ジョジョ・ラビット』でオスカーの候補に入るなど、ハリウッドでも注目されている監督で、重たいテーマや背景の中でドタバタコメディをする作品が多く、『ジョジョ・ラビット』では戦時下の子供の空想を題材にする事で、コミカルにする程辛いという、多層的な傑作を生み出しました。

前作、『マイティ・ソー バトルロワイヤル』では、北欧神話を地でいく馬鹿っぽさをコミカルに描きつつ、それを突き抜けるとめちゃくちゃ上がるって所と、「国とは!?」という問いかけを突き抜ける所が連鎖して、非常に良かった。

また本作は、2013年のダーク・ワールド以来に、ナタリー・ポートマンが、ソーの元カノ、かつ女版マイティ・ソーとして帰ってくるのも、大注目でした。




【感想(ネタバレなし)】


本作は、前作のバトルロイヤルやアベンジャーズ インフィニテ・ウォーや、エンドゲームを通して、色々なものを失ってきた、守るべき者を守れず、「神」としてのアイデンティティを喪失しているソーが、自分探しに出るところから始まります。

そこに絡んでくるのが、全知全能の神であるゼウスを中心にした「神々」と「神々に裏切られた者」で、その3社の関係性の描き方が抜群、最高でした。

本作の「神々」は、これまで宇宙の危機に対して何もしてくれなかったという疑問を見事に還元していて、「人類は手段」として利用するし見捨てるし、利己的なかなりクズなキャラクターで描かれます。

一方で、そんな「神」を信仰して、生涯を捧げた結果、飢餓に苦しみ最愛の娘を亡くした上、そんな神の最悪な姿を目撃する事で、「神々」への復讐、神殺しを誓うのが、クリスチャン・ベイル演じるゴアです。

つまり主人公が「神」の1人であるソーであるが故に、「神殺し」のゴアが物語上のヴィランの立ち位置になるんですが、「神々」の言動があまりに最悪で、見方によってはゴアが「神々」から人類を解放するヒーローにも見えるのが、この複雑な関係性がフレッシュで良かったですし、それを体現するクリスチャン・ベイルの演技も素晴らしかったと思います。

そんな相対化された最悪な「神」と「神に裏切られた者」が敵対する中で、「神」なんだけど「神」としてのアイデンティティを喪失しているソーが、「ラブ」を持って人助けをする事で、立場が決める「神」ではなく、行動が決める「ヒーロー」としてのアイデンティティを背中で示す構図が凄い良かったです。


そんな神を相対化する事から始まる話であり、神に裏切られた者の背景や、ソーが背負ってる者含めて、いくらでも重厚にできるけど、それをオフビートギャグ全開で軽くして、めちゃくちゃライトでポップな映画にしてしまうのはワイティティ監督節。

なんですが、、、

本作はストーリー推進と、オフビートギャグが完全に分離していて、そのバランスが余りに悪く、ストーリーが度々止まる感覚に苛まれ、乗れませんでした。

ストーリーの抑揚をコントロールしながら、流れの中で効果的にユーモアを散りばめて、それがキャラクターの魅力にも蓄積され、アクションの爆発力を高めたり、感動にも繋げるのが、『ガーディアンズ・ギャラクシー』のジェームズ・ガン監督なんかは凄い上手いんですが、本作は間の悪さに直結して、「何の時間なんだ...」と感じる事が、あまりに多かったですね。

壮大な設定に対して舞台が限定される事も含めて、悪い意味で二次創作感が目立ってる映画になってるなと感じました。

だだ、そういった間の悪さを全く感じず、壮大でポップな映画としてかなり楽しめたって方も多くいて、評価は二分している印象なので、是非見て頂いて感想を教えて頂ければなと思います。


  1. 2022/07/12(火) 19:53:25|
  2. 2022年公開映画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

☆8『リコリス・ピザ』

『リコリス・ピザ』



~あらすじ~
1973年、ハリウッド近郊のサンフェルナンド・バレー。子役として活動する高校生のゲイリー・バレンタイン(クーパー・ホフマン)は、ある日学校にやって来た写真技師アシスタントのアラナ・ケイン(アラナ・ハイム)に一目ぼれする。「運命の出会いだ」と告白してくるゲイリーを、年上のアラナは相手にせず受け流す。その後、食事をするなど共に過ごすうちに二人は距離を縮めるが、ふとしたことですれ違ったり、歩み寄ったりを繰り返していく。
(シネマトゥデイ引用)





8/10★★★★★☆☆☆☆

以下 レビュー(ネタバレなしです!!)

【作品背景】

『ブギーナイツ』、『マグノリア』、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』、『ザ・マスター』などのポール・トーマス・アンダーソン監督による最新作。

若くして世界三大映画祭全てで監督賞を受賞した巨匠の最新作で、いわゆるボーイ・ミーツ・ガールの青春映画になります。

本作の監督、ポール・トーマス・アンダーソン監督は、作家性も強くて、非常にファンが多い監督でもあります。

個人的に捉える彼の作品の特徴ですが、一つはキャラクターの写し方にあるのかなと思っています。

人間の未熟さやそれを隠すが故の空虚さや嘘っぽさを、付かず離れずの距離感で見守る撮り方をする事によって、悲劇と喜劇の絶妙なバランスで人を生々しく映し出す事が非常に優れていて、そんな登場人物が作る物語として、映画の魅力を引き立たせます。

また、行き当たりばったり的なキャラクターの行動を起点にしたストーリテイリングにも特徴をもち、ストーリーの向かう先が分からない、のらりくらり進んでいく所も特徴の一つなのかなと思います。

後は、長回しを活用した独特のカメラワークや、70年代や80年代の時代性やカルチャーをビビットに捉りこむセンス含めて、ポール・トーマス・アンダーソン節と言えるのかなと思います。

そんなポール・トーマス・アンダーソン監督は、彼の作品によく出演するお馴染みの俳優を起用する事が多いのですが、本作はそういった演者は豪華に脇を固めて、アラナ・ハイムとクーパー・ホフマンのフレッシュな俳優がダブル主演で青春劇を演じます。

特にクーパー・ホフマンは、監督の作品によく出ていて46歳の若さで亡くなったオスカー俳優のフィリップ・シーモア・ホフマンさんの息子という事で、かなり注目されています。



【感想(ネタバレなし)】


ポール・トーマス・アンダーソン監督の、そういったのらりくらりとした作風が、個人的にはあまりアジャストしてこなかったんですが、本作はかなり好きな映画でした。

というのも、ボーイ・ミーツ・ガール物という事で、のらりくらりの中でも向かっていく方向というのは明確で、彼の過去作の中でもかなり見やすい作品になってるとは思います。

とはいえ、だだのティーンエイジャーすれ違い恋愛物と思うなかれ。

本作は、25歳アラナと15歳ゲイリーの約10歳の歳の差の恋愛で、2人ともかなりクセあり、訳ありなんですよ。

特に25歳のアラナは、自意識が非常に強く、中身が伴わないのに外見的要素に惹かれて影響を受けて勘違いして、結果うまくいかなければ周囲に当たるという、子供っぽさ、未熟さを非常に感じさせる女性です。

逆に15歳のゲイリーは、イケイケなビジネススキル、もっというと実行するスキルは天才的で、年齢不相応な要素をもっています。

ただ、そこにある思慮深さや、想像力なんかは、年齢相応で、そのギャップが問題を起こしたりなんかもします。

そんな2人の年齢不相応な部分や、年齢相当の部分、この両面により、ありあない歳の差の恋愛を成り立たせたり、逆に遠ざけたり、右往左往する恋愛関係を絶妙に成り立たせてて、面白いなと思いました。


そんな2人、あるいは何方かの感情に寄り添うように撮られる訳ではなく、少し引いて傍観者のような立場から見守る視点で撮られています。

だからこそ、すれ違いを生む行動の一つ一つの未成熟さが際立ち、生々しくて痛々しい、それでいて可愛らしい...こんな恋愛、めんどくさい...けも何処か懐かしいなと思わせてくれる映画になっていました。


本作も70年代の街並みやファッション、音楽、映画を含めたカルチャー、ゲイリーのビジネスに使うキーアイテムのチョイスなど、時代の雰囲気を捉えるセンスは、流石だなと感じました。

そのあたり、タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』と地繋ぎ感はすごく感じました。

また本作の出演者、豪華な俳優陣など総じて良かったんですが、中でも初長編映画で主演のアラナ・ハイムさんの、実在感はめちゃくちゃ良かったです。

ポール・トーマス・アンダーソン節を浴びながら、見やすい映画になっていて、入門作品として最適な作品なんじゃないかと思います。

おススメです!!
  1. 2022/07/06(水) 13:54:20|
  2. 2022年公開映画
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