シネマ・ジャンプストリート

劇場公開映画を中心にレビュー 映画の良さと個人的感想を。

75『火花』

又吉直樹原作小説の実写映画化!

『火花』



~あらすじ~
徳永(菅田将暉)は、お笑いコンビ「スパークス」としてデビューを果たすものの、一向に売れる気配がなかった。ある日、営業に出掛けた熱海の花火大会で4歳年上の神谷(桐谷健太)と知り合う。徳永はお笑いコンビ「あほんだら」としてステージに立った神谷が見せた型破りな漫才に衝撃を受ける。そこで徳永が神谷に弟子入りを願い出ると……。
(シネマトゥデイ引用)








☆☆☆☆☆☆☆(75/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)

お笑い芸人?作家先生?の又吉直樹さんが芥川賞受賞を受賞した同名小説の実写映画化。
Netflixのドラマ版がまだまだ記憶に新しいところですが、同ドラマでも製作に関わった同じくお笑い芸人の板尾創路さんが、映画版では監督を務めます。
Netflix版と比べると出演陣も豪華。
スパークスの徳永を演じるのが我らが菅田将暉。
彼が尊敬する先輩芸人の神谷を桐谷健太が演じます。


まずこの映画で、誰もが異論なく絶賛しているのが菅田将暉と桐谷健太のはまりっぷり。
キャスティングの大勝利と言っても過言ではないです。
そもそもの二人の画面映えする魅力はもちろん、
徳永と神谷がスクリーンの向こうにいるんだという実在感が最高。
徳永の自由なボケと神谷の絶妙なツッコミの掛け合いの楽しさが、この映画の最大の魅力になっています。

ずっと見ていたい二人の掛け合いですが、流れる時間は当然一方通行です。
二人が輝く期間は無限にある訳でなく、終わりを匂わされるにつれて、二人のシーンが輝けば輝くほど画面の奥側に切なさを感じるようになります。
売れる人、売れない人、随所に感じるお笑い芸人としての「格」の違い。
持って生まれた才能も、求められているものにマッチしなければ、次第に虚しい物に見え始めてきます。
あの夢見た時間は、もう...

そんな中での、「でも...!?」という自身がお笑い芸人であるからこのそ又吉直樹の思いが詰まったメッセージ。
確かに感じる切なさと共に、一方通行だからこその無駄ではなく積み重なっていく価値があるんだという熱い熱い愛情を感じました。

そして極めつけはクライマックス付近にあるスパークスの漫才。
このシーンが本当半端ない。
心理と言葉のギャップを利用した、映像だからこそ真価を発揮するこれぞ映画的な感動。
まさかまさか、漫才で泣くとは...


全体の画作りや語り口は地味目ですが、二人の出会いのインパクトや掛け合い時の「動」を、盛り上げすきわない丁寧な「静」のストーリーテリングで紡いでいく、板尾監督の職人的な手話は、正直驚かされました。

質の良い邦画を観た時の心地よさに包まれながらの聴くエンドロールの「浅草キッド」

オススメです!!



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  1. 2017/12/27(水) 16:50:56|
  2. 2017年公開映画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

75『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』

物語の奥。

スタジオライカ最新作。
『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』



~あらすじ~
クボは三味線を奏でることで折り紙を自由に操ることができるという、不思議な力を持つ少年。かつて闇の魔力を持つ祖父に狙われた際に父を亡くし、片目を奪われたクボは、最果ての地で母と生活していた。しかし、闇の刺客に母までも殺されてしまう。両親のあだ討ちを心に誓ったクボは、面倒見のいいサルと弓の名手であるクワガタを仲間にする。
(シネマトゥデイ引用)








☆☆☆☆☆☆☆(75/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)

『コララインとボタンの魔女』や『パラノーマン ブライス・ホローの謎』のストップモーション・アニメーションを制作するスタジオライカ最新作!
スタジオライカの長編映画としては三作目になります。
監督は初の長編作品となるトラヴィス・ナイトさん。
パラノーマン~にも関わったアニメーターであり、スタジオライカのCEO。
父親がナイキ創設者のフィル・ナイトさんなんだから、本当なんて一家だ!


特殊な力を持つ主人公が、復讐の為に不思議な武器と力を求めて、仲間と共に旅に出る。
これでもかというストレートな冒険譚のシナリオの中で、異彩を放つのはスタジオライカの独自の人形劇です。
作り手の熱量と途方もない緻密な作り込み。
その結果、画面に広がる情景の豊かさはCGとほとんど遜色なく、更に人形劇だからこその世界で類を見ない質感が画面に広がります。
恐るべきスタジオライカ!


そしてその舞台が日本であり、リスペクトフルな活かし方をしているのだから上がらない訳がない。
表面的な名前やビジュアルだけでなく、かぐや暇を連想せざる得ない日本的な世界観や、大正解なお盆の活かし方。
日本の精神性を物語に投下しようとする姿勢が随所に感じて、もう本当ありがとうございます!
一部中国がMIXしちゃってるなんて事はあるけど、そんなのご愛嬌程度。
こんな日本を舞台とした世界観と、人形劇の質感は、NHK人形劇を恐ろしくアップグレードした様子で、当然ながらマッチしています。


そんなこの作品に更に凄みを与えているのは、非常に多層的な構造になっているテーマの語り方です。
スタジオライカ作品は人形劇の性質上、「語られている」事を強く感じやすいのですが、本作はそれが直接のテーマになっています。
詳しくは言えませんが...
何故物語が必要とするのか?
序盤で語られる結末のない物語。
そしてラストで語られる救いの物語。
積極的には指摘しないのですが、奥にある物語が、常に薄っすらと意識させられる作りになっていて、それが余計に胸を締め付けるのです。

恐るべきスタジオライカ!!
今更ながらオススメです!!!


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  1. 2017/12/26(火) 19:13:55|
  2. 2017年公開映画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

70『ローガン・ラッキー』

ソダーバーグ監督復帰作!

『ローガン・ラッキー』



~あらすじ~
脚が不自由で仕事も家族も失ったジミー(チャニング・テイタム)は、人生を一変させようと犯罪計画を立てていた。それはカーレース「NASCAR」が開催されるサーキット場の金庫から、大金を強奪するというものだった。片腕を失った元軍人の弟クライド(アダム・ドライヴァー)、カーマニアの妹メリー(ライリー・キーオ)、爆破のプロで服役中のジョー(ダニエル・クレイグ)を仲間に迎えるジミー。ジョーを脱獄させて金庫を爆破し、再び彼を獄中に戻す大胆不敵な計画は順調に進んでいたように思えたが……。(シネマトゥデイ引用)








☆☆☆☆☆☆☆(70/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
おかえりなさい、スティーブン・ソダーバーグ監督!
『オーシャンズ』シリーズや『チェ』三部作、『トラフィック』のソダーバーグ監督、2013年にまさかまさかの映画監督引退宣言。
近年はテレビシリーズで主に仕事をしていましたが、約4年ぶりの復帰作。
観ない訳には行かないでしょ!

そんな監督の元には、実力派スターが集結。
『マジック・マイク』や『フォックスキャッチャー』のチャニング・テイタム、
『パターソン』や『スターウォーズ フォースの覚醒』のアダム・ドライヴァー、
『007』シリーズや『ドラゴン・タトゥーの女』のダニエル・クレイグ、
『マッドマックス 怒りのデスロード』のライリー・キーオ、
更にはセス・マクファーレン、ケイティ・ホームズ、キャサリン・ウォーターストン、ヒラリー・スワンクらが結集と...
観ない訳には行かないでしょ!!!


豪華スターによる、チーム強奪犯罪映画。
ある程度の映画好きであれば、ソダーバーグの代表作の一つである『オーシャンズ11』『オーシャンズ12』『オーシャンズ13』を自ずと思い浮かべてしまいます。
しかし、本作はそれらシリーズとは正反対。
プロフェッショナルな強盗劇にスタイリッシュな面白さを強調するのが『オーシャンズ』シリーズであれば、本作『ローガン・ラッキー』は素人が強盗をする事にこそ面白さが集約されています。

緻密なんだけど、どこか間抜け。
よくできたような、出来ていないような計画。
オーシャンズとは正反対で、ゆるさ、くだらなさが全開で終始にやにやしっ放し。
素人だからこそのまさかの展開が楽しい、そんな映画になっています。

キャラクターにも魅力がぎっしり。
お気に入りは、おかしなな尖り方をしたジョーの兄弟。
その信念、どう考えても君たちに合ってないよ!笑
義手バーテンのクライドの、というかアダムドライバーのどこか抜けたキャラクターも最高です。
そして何が良いって、彼らはみんな社会的に何か欠けた人間である事。
田舎の保守的な街、閉塞感のある中でそれぞれ失ったものを取り戻す為に、素人な強盗を実行する彼らを、そりゃ当然応援したくなるよ。

そして、頭を使った機転ではなく、タイトルの通りに幸運でピンチをしのぐ潔さもまた、この映画ならではの魅力です。


間の取り方だけでなく、ラストのネタバラシのあっさりさ含めて、ソダーバーグらしさをひしひし感じました。


おかえりソダーバーグ!!

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  1. 2017/12/04(月) 20:19:57|
  2. 2017年公開映画
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85『彼女がその名を知らない鳥たち』

泥水まみれな大傑作!

白石和彌監督の最新作
『彼女がその名を知らない鳥たち』



~あらすじ~
15歳年上の佐野陣治(阿部サダヲ)と共に生活している北原十和子(蒼井優)は、下品で地位も金もない佐野をさげすみながらも、彼の稼ぎに依存し自堕落に過ごしていた。ある日、彼女は8年前に別れ、いまだに思いを断ち切れない黒崎に似た妻子持ちの男と出会い、彼との情事に溺れていく。そんな折、北原は刑事から黒崎の失踪を知らされ、佐野がその件に関係しているのではないかと不安を抱き……。
(シネマトゥデイ引用)








☆☆☆☆☆☆☆☆(85/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
去年は傑作を連発していた日本映画ですが、今年は少し低調かなと思っていましたが...
ここに来て、今年の邦画ベスト更新です!!

「ユリゴコロ」などの沼田まほかるの同名人気小説の実写化、監督を務めるのは『凶悪』や『日本で一番悪い奴ら』の白石和彌監督。
あらゆる角度のダメな人間を撮らせたら右に出る者はいない、間違いなく信頼できる監督です。
永遠の少年イメージな阿部サダヲ、透き通った演技派女優の蒼井優、独特の黒さを出し始めた松坂桃李、どこか軽さを感じさせる竹野内豊。
こんな面々が、白石監督の元でダメ男、クズ男を演じるのだから楽しみで仕方がありません!



共感度0パーセント!?

そんな売りをしているこの映画、確かに誰一人として感情を移入出来る人は出てきません。

阿部サダヲ演じる陣治は、とにかくガサツで下品、貧相、汚い。
おっさんの嫌な所を凝縮した彼の気持ち悪さは、映画史に残るレベルです。(最高に褒めてますよ)
蒼井優演じる十和子は、自尊心だけが高いフリーター。
自分本意で他人に共感が出来ない彼女が、一体なぜ陣治と付き合っているのか...
この二人の関係性が、終始映画に奥行きを確保すると共に、物語としても大切な要素となっていきます。

そして、十和子に迫る...いや十和子が迫る?二人の男性もたいがいヒドイのです。

竹野内豊演じる黒崎は、8年前に都合の良い言葉で十和子と交際し、最低最悪な行為で彼女と関係を終わらせていました。
しかし、十和子は今だにその都合の良い言葉を忘れられない訳で...

極め付けは松坂桃李演じるデパートの店員水島。
妻子がいながら十和子の弱さに同調し、第二の黒崎へとなっていきます。
彼らの出会いから肉体関係となるまでの過程は、弱さ脆さの真骨頂で、第三者としてみてる分には最高です。
「あーー」って何だよ!笑


こんな最低(最高)にダメでクズな人間達ですが、真っ直ぐは笑えない、苦さがずーっとい続けます。
ただ共感できるような人物設計になってないだけで、この居心地の悪さは、自分にも否定できない所が彼らそれぞれから少しずつ感じるから。
最高にダメでクズな彼らから、少しだけ感じる苦さ、このバランスが最高なんです!


そんなダメ&クズな行動が次第にサスペンスを作りはじめます。
そしてその顛末が更にダメ&クズを明らかにしていくのです...
しかしラストに残る印象は、中盤のそれとは全く違うもの。
号泣に次ぐ号泣。
みなさん、愛すべきはダメ人間なんですよ!!

2017年最も泣いた映画であり、邦画ベストです!

オススメです!

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  1. 2017/12/04(月) 20:08:52|
  2. 2017年公開映画
  3. | トラックバック:5
  4. | コメント:0

70『ノクターナル・アニマルズ』ラストの解釈

ファッションデザイナー兼映画監督!?
トム・フォード監督最新作!

『ノクターナル・アニマルズ』



~あらすじ~
アートギャラリーの経営者スーザン(エイミー・アダムス)は、夫ハットン(アーミー・ハマー)と裕福な生活をしていたが、心は空っぽだった。ある日彼女のもとに、20年前に離婚した元夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)から、彼が書いた「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」という小説が届く。







☆☆☆☆☆☆☆(70/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
グッチやイヴ・サンローランで活躍後、自らのファッションブランドを手がける世界的ファッションデザイナーのトム・フォード。
映画のブログで何故ファッション!?となりますが、ファッションデザイナーの彼が映画監督として手がけるのが、今作『ノクターナル・アニマルズ』。
『シングルマン』で鮮烈な監督デビューを果たした彼が、7年ぶりに満を持して挑む最新作は、オースティン・ライトの小説「ミステリ原稿」を基にしたミステリーで、見事ヴェネツィア国際映画祭審査員大賞を受賞しています。
天は二物を与えますな...

主演は『メッセージ』や『アメリカン・ハッスル』等のエイミー・アダムス。
成功を手にするも心が満たされない女性スーザンを演じます。
彼女の元夫であるエドワードを、『ナイト・クローラー』や『ブロークバック・マウンテン』の我らがジェイク・ギレンホールが演じます。



冒頭のクセ

観た者全て、頭から離れない冒頭。
こんな事言っていいのかわからないが、生理的に拒絶してしまう映像が、芸術として描かれます。
そこに心ここにあらずな表情でたたずむスーザン。
芸術とは?成功とは?
スーザンの内心を非常にシニカルに印象づける冒頭から、心鷲掴みにされます。

今作の構成は、成功を得ながらも空虚な生活を送る原題パートを中心に、
「過去に何かがあった」元夫から送られてきた小説の世界を描く劇中劇の二層構成で進行します。

この小説の目的とは?過去に何があったのか?
こんな謎を出し引きしながらも、劇中劇のあまりの不条理さに圧倒。
現実パートの謎と劇中劇の不条理が重層的に積み上がっていきます。

画面に映る配色から構図を含めて映像と、そこに被さる音楽。
そして上で記した語り口の巧みさ。
「只ならぬ予感」を作り出し、ぐいぐいと関心を引いていきます。
アート的な映像なんだけで、面白さが堪える事がない。
デビッド・リンチを彷彿とさせる、監督トム・フォードのセンスに脱帽です。




そして、この映画で触れないといけないのはラストの解釈ですよね。

核心には避けますが、一部ネタバレも含まれるので注意してください。


私は以下3つの解釈が存在すると思っています。
まず、一つ目が
「ハットンは自らが失くした物を小説を利用してスーザンに突きつけ思い知らせた上、ラストの行動で失望させるという、復讐をしていた。」という最もシンプルな解釈です。
ノクターナル・アニマルズという劇中小説のタイトルは現実ではスーザンの事ですが、劇中劇では野蛮な男達の事ですよね...


そして二つ目は、更に掘り下げます。
「ハットンは劇中劇の主人公含む様々な登場人物をスーザンに被せて書いており、それにより彼女を試した」という事です。
スーザンは劇中劇で主人公をハットンに写し変えていましたが、それは間違いという事ですね。
内容を表面的に捉えるスーザンは勘違いをし、実は成功を重視しているスーザンは才能を見せたハットンに飛びついた。
「何も変わっていないどころか、あなたが嫌悪した母に似ていってるよ」という事を思い知らせたという事になります。
ちなみに原作の原題はTony and Susan。劇中劇の男性と現実のスーザンが何故か対比されています。


そして三つ目はぶっ飛びます。
「小説はハットンの作品ではなく、二重人格?夜行性のスーザン自身が手がけた作品である」という事です。
実際に現実パートでなぜかハットンは登場しません。
スーザンの寝不足は精神的な物ではなく創作活動によるもので、ノクターナル・アニマルズとは自己表現が唯一出来る夜のスーザンを意味するのかもしれません。
利己的な昼のスーザン自身は、自己表現をする夜の自分を認識しておらず、過去の旦那からの物だと自分の中ででっち上げて、その内容を持って贖罪をしているのでしょうか。
ラストで彼女は夜のスーザン、つまり自己表現が出来る本来の姿になったという事でしょう。


正直、正解は様々なレビューを見ても、結論は出てません。
むしろそれが面白いのかもしれません。

議論したい!!
是非コメント待ってます!



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テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

  1. 2017/11/25(土) 13:19:16|
  2. 2017年公開映画
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