シネマ・ジャンプストリート

劇場公開映画を中心にレビュー 映画の良さと個人的感想を。

第28回東京国際映画祭

秋だ!映画だ!映画祭だ!!

第28回東京国際映画祭



今年も東京国際映画祭へ。
日本で唯一の国際映画製作者連盟 (FIAPF) 公認の国際映画祭。六本木のTOHOを中心に、新宿のTOHOやピカデリーで催され、「コンペディション部門」「特別招待部門」「ワールド・フォーカス部門」など、100以上の映画が10日間に渡って上映される。

上京以来、4年連続の参戦。今年は予定があり参加出来ないかな...と思っていた所に急遽参加が叶い、天にも登る気持ち。
去年はベイマックスをワールド・プレミアで鑑賞する幸せを味わったが、今年は土日のみでコンペディション部門作品を6本鑑賞。

今年の映画祭自体の印象は...
ここ数年、予算規模が増した影響で、上映作品や部門の増加に伴って、六本木のみならず様々な会場をまたいで開催する流れになって来ている。規模が大きくなる事で、普段映画を映画館に観に来ない方々の目に触れる機会が増える。普段見る事が出来ない類の映画に触れる事が出来る。映画の窓口が広がるという意味でこれは非常に素晴らしいのだが、一方で映画祭の醍醐味である「街を上げての開催」要素が年々減退しているように感じる。
「あぁ映画祭に来ている!」って感じがもう少し欲しいな...

さて、見た映画をお気に入り順に。
以下 レビュー(核心のネタバレなし)

『地雷と少年兵』
☆9
デンマーク映画。
第二次世界大戦終戦時、ドイツ軍によって海岸線沿いに埋められた膨大な数の地雷。それを取り除く為に動員されたことのは、ドイツ人捕虜の少年兵だった。

史実の悲惨さを突きつけると共に、現代にもまだまだ残る悲劇。いつ死ぬかわからない、地雷撤去作業。食料もまともに与えられる中で、精神的にも枯渇していく。
救いのない話を描いているようで、その中で辛うじて辛うじて辛うじてある救いは、人と人が触れ合って取り戻される尊厳。

大事なのは守るべき国よりも、人と人との繋がりであり、それらの広がり。知らぬ彼らも、同じ人であり、家族も悩みも持つ。
内に向く思想が、人を残酷にし戦争に導いてしまう...

映画祭での公開がきっかけて、関係者の目に止まり日本配給が決定。映画史に残る戦争映画なので、是非。


・『ボーン・トゥ・ビー・ブルー
イーサン・ホーク主演。
☆7.5
50年代から80年代にかけて、チャーリーパーカーも認めたトランペットの実力と、中性的な歌声で人気を博したジャズ奏者のチェット・ベイカー。
彼がヘロインに溺れ、喧嘩で前歯を無くした為に演奏が困難になった60年代に焦点を当てる。

満足に演奏が出来なくなった男が、再び表舞台に帰ってくるワンスアゲイン映画。
それでいて、ヘロインに溺れていた彼を、トランペットが吹けなくなった彼を一人の女優が支え、人間らしさを取り戻すロマンティックな恋愛映画。

しかし二つが決して同ベクトルでないのがこの映画の最大の魅力。彼女の支えの結果で表舞台に戻るとき、プレッシャーが究極の選択にさらされる...
彼の出す答え、結末に胸が締め付けられる。


ニーゼ
☆7.5
1940年代のブラジル。精神病院にてショック療法が正しい物とされていた当時、病院に女医のニーゼが着任する。彼女の見た治療現場はあまりに強制的で衝撃的であった。歪さを感じた彼女は、病人を観察する所から始める...

ドキュメンタリータッチの実話をベースとした作品。
病人を人間扱いせず、治療法しか見ていなかった当時の精神病院の描写はあまりに耐え難い。
そんな中ニーゼは「人を見る」という概念をもたらし、画期的な「芸術療法」にたどり着くのだが、この時の我慢は想像に耐えない....

このような変化をもたらす人がいて、今がある。そういう事実を、敬意を込めて思い返させてくれるだけで、間違えなく価値がある。


『スナップ』
☆7
タイ映画。ワールド・プレミア。
彼氏と何不自由無く暮らすヒロインの前に突然高校時代の友人が現れる。恋人未満、友人以上だった彼との関係。
そんな彼を交えて、高校時代の友人の結婚式に参加すべく故郷に帰る事に。
ふたりで数えた池の魚。思い出のベンチ。懐かしい友人と母校を回りながら、過去の恋愛を思い出す...

SNSの投稿写真を交えて、終始カラッとしているノスタルジー満点の青春映画。終始軽い気持ちで観ることが出来る。
しかし、あくまでそれは上辺だけ。作品のテンションと物語の骨格が全く一致しない。
物語の中心にあるのは、もう取り返せない彼との思い出にある甘酸っぱい切なさと、背後にクーデターの影が匂ういつでも転びうるお国柄の危うさ。このバランスがフレッシュで作品に奥行きを与える。

ラストの答え合わせで一気に???要素があったシーンがフラッシュバックして切なさが止まらない...
ただ、過去何があったかが結構わからないまま進むので、少しついていきずらい...


『残穢-住んではいけない部屋』
☆7
竹内結子主演。ワールド・プレミア。
怪談小説の作家である「私」。読者からの投稿を募集していた彼女の元に一枚の投稿が届く。
投稿の送り主は岡谷マンションに住む、大学生の久保さん。彼女いわく「部屋に誰かいる。頻繁に何かが床に擦れる音が聞こえる」との事。調査を始めた二人だが、とんでもなく大きな怪奇へとつながぅていく....

原作は小野不由美さんのホラー小説。
とにかく音の使い方が凄い。映画館のサラウンド効果を最大限に活かし、呻き、叫びに全身を覆われる。

前半は正体の定かではない者が部屋にいる怖さを。中盤は話がとんでもない所に広がっていく壮大ゆえリアルな怖さを、より身近に感じさせるような、竹内結子さんの客観的なトーンのナレーションを交えてうまく表現。特に、中盤の展開はサスペンス的にも非常に面白い。

ただ、広がりすぎたが故に、話がどうでもよくなってくるのも事実。サスペンス要素が強くなって来た所で、それをスパンと切っちゃうのもどうなのかと...


『さようなら』
☆6
ほとりの朔子の深田監督作。ワールド・プレミア。
同時多発テロで日本中の原子力発電所が爆発。日本では決して住める状態でない中、政府は順次国民に他国避難の斡旋を開始する。そんな中、外国人であり病気を持つターニャには中々避難の案内が来ない。アンドロイドと暮らす彼女であったが、次第に彼女の周囲の人が、一人また一人と去っていき...

本物のアンドロイド、“ジェミノイドF”がアンドロイド役を演じた事で話題に。
ロボットと並べてようやく見えてくる「人間とは」「死とは」。極限状態の中での生活だが、極めて静的に描く事でこれらを問いかける。

合わないのか...ただただ退屈でした。やろうとしてる事は面白いのだが....
物語に内在する社会問題。原発、差別、難民。これらを推進するのは登場人物達の会話。この組み合わせが最悪で、社会問題を含めて、とって付けたようにしか聞こえない。それゆえ会話が全く乗れないのだが、二度ほどあった舞台的に大声で叫ぶシーンもダサく感じ...


東京国際映画祭サイコー!
今週土曜日まで開催している為、機会があれば皆様是非に。

  1. 2015/10/28(水) 20:05:45|
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55 『ファンタスティック・フォー』 超人モンスター誕生

世界初のヒーローユニット映画のリブート。

『ファンタスティック・フォー』



~あらすじ~
天才的な科学の才能を持つあまり、幼少時代に親からも先生からも見放されていたリード(マイルズ・テラー)。彼の唯一の理解者は、相棒のベン(ジェイミー・ベル)だけだった。
大人になった二人は、自ら作り上げた物体空間転送装置を持ってコンテストに出店。そこで世界的な財団の科学者Dr.ストーム(レグ・E・キャシー)と、その養女スー(ケイト・マーラ)にリードはスカウトされる。
なんと二人の作っていた装置は、無限のエネルギーを持つ「異次元」へ転送する装置だった。破天荒ながら天才技師であるストームの実子ジョニー(マイケル・B・ジョーダン)と、危険思考があるが計画の大元を発案したビクター(トビー・ケベル)も合流し、研究の末に完成した物質転送装置で異次元空間プラネット・ゼロへのテレポートに挑むが……





☆☆☆☆☆(55/100)

以下 レビュー(核心のネタバレなし)

注:これはヒーロー映画ではございません。

監督にPOV形式で撮影した、傑作拗らせ青春超能力映画「クロニクル」のジョシュ・トランク、主演に「セッション」で強烈な狂気で拗らせたマイルズ・テラーや、「クロニクル」で拗らせないが為に?死んだマイケル・B・ジョーダン。
もうこの布陣を聞いただけで期待急上昇。
面白くない訳ないだろ!!
最近のマーベルは作品の雰囲気に合わせて(アクション映画が得意かどうかは関係なく)ベストな監督を選び、ベストなキャスティングをする為、見る前からどういった作品かある程度推測出来る。
そう、今回は生々しく、そして拗らせる話だ。
世間の低評価?そんなの嘘に決まってる。


序盤から中盤にかけての展開は決して悪くない。
予想どおり冒頭から、ファンタスティック・フォーの元来のイメージである、バカ明るい要素は皆無。
何者でもなかった才能ある若者達。
彼らの背景から始まり、自分達の「巨大物質転送装置」を作り上げていきながら、絆を深めていく。
この過程を、地に足をつけた演出で淡々と描きこむ。

最初の1時間はこの後どうやってヒーロー物に?という展開だが、スーを残して4人で異次元空間に旅たつ所で一気に物語が動き出す。
ある過程を得て、彼らが能力に目覚める描写は、アベンジャーズ系統のソレとは一線を画す。
決して「ハイ」にはならず、肉体的にも精神的にも痛々しく生々しい。
全然羨ましくない。
クローネンバーグ的と言うべきか。
ともあれ、これはこれで悪くない...ていうか、この後めちゃくちゃ面白くなっていくに違いないという期待感が次第に高まっていく。

この映画の大きな問題はここから。
とにかくこの映画、面白くなりそうな所でことごとく期待を裏切ってしまう。
特に彼らが能力に目覚めてしまってから、ヒーローになるまでの展開が酷い。
見たい所をわざわざ飛ばす....
他にも、さぁ終盤のここからヒーロー映画として盛り上がっていくのね!?とテンションを持ち上げ始めるのに、余りにも雑な結末だったり。
徹底的に裏切ってくれる。
こんなに製作陣の迷いが見える映画は久しぶりに見たかもしれない。

こうなってくると、前半の展開も色々突っ込みたくなる。
スペシャリストが集まってるハズなのに、全く分担が見えてこなかったり...
時間をかけてキャラクターを描いているのに、彼らの映画以前の生活が全く見えなかったり...

マーベル自体も「バカ明るいヒーロー」のイメージでファンの多いシリーズに、生痛い青春描写が得意なジョシュ・トランクを当てた段階で、ある程度の批判は覚悟しているように感じる。
しかし、それ以前に余りにもバランスが悪い。

とはいえ、アクション描写自体は非常にフレッシュで、作品自体まだまだ持ち直す余地は全然あると思っている。
続編に期待!!


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  1. 2015/10/27(火) 22:30:35|
  2. 2015年公開映画
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75『バクマン。』漫画が動き出す!

漫画家を描く異質な大人気漫画が遂に実写映画化!!

『バクマン。』



~あらすじ~
高校生の真城最高(佐藤健)。おじが元漫画家で、優れた画力を持つ彼だが、一緒に漫画家になろうと原作家志望の高木秋人(神木隆之介)から誘われるも、何事にも熱くなれない彼は当初は拒否する。
しかし、憧れのクラスメート亜豆美保(小松菜奈)が、声優志望である事を知り、「ある約束」をする事で、最高はプロの漫画家になることを決意する。最高と秋人。二人は週刊少年ジャンプ連載を目標に日々奮闘するが、彼らの前には天才漫画家の新妻エイジ(染谷将太)が立ちはだかる....



☆☆☆☆☆☆☆(75/100)

以下 レビュー(核心のネタバレなし)

「無機質な紙の上に、ペン一つで生を与える。」
漫画の映画化という綱渡り。
それを、これ以上ないバランスで最高に気持ちよく実現してくれた事に、この上ない感謝感謝感謝。

原作は、少年週刊ジャンプで約4年に渡って連載された超人気漫画。
「デスノート」組の原作・大場つぐみ、作画・小畑健が再びタッグを組んだと言う事に加えて、漫画家を描く漫画というなんともアグレッシブな着眼点に、一話目から話題を呼んだが、決して話題に終わらずとんでもなく面白い。
大場つぐみのリアル志向の物語背景と、作画の小畑健の読み易く計算された絵の相性が良いのか...彼らの描く自分達の王道。
とにかく次作「プラチナエンド」も楽しみ。


今作の主人公は、真城最高と高木秋人の高校生コンビ。原作のコンビ同様、漫画内でも原作と作画を二人で分担して漫画を書いている。
彼らは漫画初めて書いた漫画、SF冒険物の「二つの地球」を週刊少年ジャンプ編集部に持ち込む。
初めて漫画を書く二人は、悪戦苦闘しながら完成に導くのだが、今作の最大の見所は「漫画を書く」場面なのは間違いない。

漫画というものは、一コマ・一コマは静止している2次元の絵でしかない。
しかし、漫画家が息を吹き込めは、実際には動いていないはずの紙面が途端に動き出す。
これが漫画家は紙面の上では神たる所以。
「無機質な紙の上に、ペン一つで生を与える。」
この過程を、映像という動の媒体で文字通りダイナミックにムクムクと生を与える。
本来は地味なはずの漫画作製の工程。
なのに、この気持ち良さ!!
彼らが漫画家として成長していくのとリンクして、よりアクロバティックになっていくのもどんどん面白い。

漫画と映画。
時には漫画的な演出を映画に持ち込んでしまう事で「映画としてのバランス」を崩してしまったり、バカっぽくならないように改変する事で原作の個性を潰してしまったりする。
しかし、漫画という題材を真正面から映画で捉えると、ここまで相性が良いのか...
静を動に変えるという過程を、実際に表現できるのだから。
このダイナミックな演出と、漫画的なセリフや間との相性も抜群で、永遠に浸ってられる心地よさに。「結婚して下さい!」「え...」「あ..!」漫画的なセリフの応酬が心地よいのは、大根仁監督のバランス感覚だろなー

もう一つ、この映画を大好きなのは青春映画たる所以をしっかりやってくれているから。
何者でもなかった真城最高。
何者かになりたかった高木秋人。
この高校生特有の不安感も、何者かになり始める事で、道がようやく開け始める。
この過程も最高に...気持ちいい...

エンドロールに象徴される、「漫画愛」しいては「週刊少年ジャンプ愛」が、作中に満ち溢れているのも、原作ファンを多いに唸らせてるのでは。
友情・努力・勝利。
書いてても寒くなるようなこの週刊少年ジャンプのテーマだが、漫画というクッションを一段入れる事で、漫画家達の行動も決して寒く見えないのだから、不思議。

絶賛しきりたい所だが、唯一にして決定的に納得いかないのが、ラストの展開。
「その意地、我慢は間違ってる...」と思ってしまうのは、心が寂れているからだろうか...

ともあれ、こんなに気持ちよく見られる漫画映画は数を数える程もないので、原作ファンならずも、映画ファンも必見ですよ!
オススメ!!


あ...演技は文句ないけど、高校生はちょっと無理が...w

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  1. 2015/10/17(土) 22:08:01|
  2. 2015年公開映画
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