シネマ・ジャンプストリート

劇場公開映画を中心にレビュー 映画の良さと個人的感想を。

60『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』

死者の成長譚!?

クドカン最新作。地獄のロックコメディ。
『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』


~あらすじ~
修学旅行で乗っていたバスが事故に遭ってしまった男子高校生・大助(神木隆之介)。ふと目を覚ますと、炎が渦を巻く中で人々が苦しめられている光景が目に飛び込んでくる。地獄に落ちたと理解するも、同級生のひろ美に思いを告げずに死んでしまったことに混乱する大助。そんな彼の前に、地獄農業高校軽音楽部顧問にしてロックバンドの地獄図(ヘルズ)のリーダーである赤鬼のキラーK(長瀬智也)が現れる。彼の指導と特訓のもと、地獄から現世に戻ろうと悪戦苦闘する大助だが……。
(シネマトゥデイ引用)




☆☆☆☆☆☆(60/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
脚本家であり、俳優であり、放送作家であり、作詞家であり...映画監督の!
クドカンこと、宮藤官九郎の監督4作目となる作品。
監督作としては2009年の『中学生円山』以来となりますが、その間も数々のドラマや映画に出演したり、5本ものドラマの脚本を担当したりで大忙しです。
脚本を担当したドラマ『あまちゃん』による一連のムーブメントも記憶に新しい所です。

そんな中での満を持しての映画...なんですが、公開までの道のりは、決して順風満帆ではなく、1月に発生した軽井沢スキーバス転落事故をうけて、一度は公開を延期になりました。
当初は2月に公開予定だった映画ですが、このタイミングになった訳です。
作中の該当描写に生々しさは全くありません。(むしろギャグ的な描写になっている)
しかし、というよりも、だからこそ延期は極めて賢明な判断だったと思います。

神木隆之介演じる主役の大助は、ザ・今時感全開のダメダメでなよっちく、エロで妄想ばかりの調子乗りな高校生です。
修学旅行の移動バス内で、ばればれの理由を使い、大好きなひろ美(森川葵)の横に座るが、バスが谷底へ...
気がつくと、そこは奈落の底、地獄。
「何故おれだけ!?」
見渡すと、絵本に出てくるようなイメージ通りの「地獄」を体現した世界があります。
眼を見張るのは、現世の描写や天国の描写と対比させるよう、明らかに意識して作られた地獄の演劇調な美術。
独特の世界観を作り上げる美術さんの仕事は、作品を通して終始際立っています。

そしてもうひとつ、この世界から掴んで放さないのが、爆音で鳴り響く地獄ロック。
現世でモテる為にギターをしていた彼は、地獄の農業科軽音楽部の顧問であり、地獄図のリーダーである長瀬演じるキラーKにスカウトされます。
転機となるあらゆるシーンでロックが鳴り響く上、勝者が現世で生まれ変われる「地獄ロックバトルロワイヤル(ジゴロック)」という形で、ストーリーの中心にからんできます。
つまりこの映画は、完全な音楽映画(at地獄)なんです。
地獄図の歌詞の中に「んな無茶な...」て形でロックスターが登場したり、乙年のミュージシャンが鬼としてロックをしたり、
ロックな人物を取り上げる小ネタはくだらなくて、素直に笑えました。
クドカンが歌詞を担当って、どんだけ多才なんだか...

今作は、地獄に行った高校生の成長譚です。
地獄に行ってるのに、成長ってエッジ効きすぎでしょw
作中の地獄では、全ての人間に、生まれ変われるチャンスが6度あります。
ただその行き先は人間道だけではなく、天国道、畜生道などさまざま。
天魔様に口述でアピールして勝ち取る(なんだそれw)のですが、選ばれるのは、現世に動物として飛ばされる畜生道ばかりです。
演劇調の地獄と、動物として帰る現世を交互に見せて、「何故死んだか」や「その後」の様々な伏線を回収する構成は、非常に楽しめました。
地獄での1週間が、現世での10年に相当するという設定も、効いてきます。

情報量がすさまじく、クドカンらしく最初から最後までテンポよく描かれます。
小ネタも面白いです。
しかし...世間の高評価に反する形になってしまうのですが、私はこの映画、「つまらなかった」という印象が残りました。
あまりにも終始ベロベロバーすぎると。
テレビコント的なネタが多すぎるように思えるのです。
話の中のシチュエーションや状況を利用した笑いであれば、その笑いがストーリーを作っていくから飽きません。(それこそ映画的な笑いと思います)
しかしこの映画には、劇中の人物が「面白いだろー」と言わんばかりの、単発の顔や行動のみで笑いを取りに行くシーンが多すぎます。
繰り返しになりますが、一つ一つのネタは吹き出してしまうものも多いです。
特に精子になるくだりとか、流れの中で見せられる所は本当に最高です。
笑ったのに、なんだかつまらなかった。映画事態はそんな印象でした。

また、この映画の好きな人からは、気にすべき所でないと言われそうですが、ストーリーラインも、時間軸もはちゃめちゃです。
突っ込みどころが...というレベルではなく、何でもありというレベル。
特にバンド勝負の持って行き方や、結末は...
更に、ひろ美の語りシーンは、無理有り過ぎて心底萎えました。
キラーKの報われなさも納得出来ません。
(忘れる力が人間のポジティブな能力??この場合、正反対でしょ...)

愚痴はこの辺りでやめておいて、
主演の神木隆之介の童貞こじらせ感は、やはり安定ですね。
最高でした。
ただこの映画は、ヒロインの森川葵!
かわいい!というかもう好き。
死んでも死んでも死んでも会いたくなるのは、仕方なしです。

批判も書きましたが、私は少数派と思いますので...
是非劇場で見て下さい!




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  1. 2016/07/13(水) 20:01:30|
  2. 2016年公開映画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

70『教授のおかしな妄想殺人』倫理観ふぉー!

ウディ・アレン節全開!

悲劇?喜劇?
『教授のおかしな妄想殺人』



~あらすじ~
アメリカ東部の大学。孤独で気力のない哲学科の教授エイブ(ホアキン・フェニックス)は、ある日不快な判事についての話を聞く。自分がその判事を殺害するという完全犯罪を妄想した途端、よどんでいた彼の人生は鮮やかに色づき始める。一方、エイブのことが好きな教え子ジル(エマ・ストーン)は、教授が奇妙な殺人妄想に夢中になっているとは知らず、恋心を募らせていくが……。
(シネマトゥデイ 引用)




☆☆☆☆☆☆☆(70/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
巨匠!
『アニー・ホール』や『ミッドナイト・イン・パリ』の御歳80歳、ウディアレン監督の最新作。
ウディアレン監督らしい皮肉たっぷりの映画になっております!

ウディ・アレンの(あくまで私の)イメージは、
一歩引いた視点で悲劇と喜劇の合間を縫い、
人と人の出会いでストーリーをうねらせていく。

どの作品も、共感とかそんなんじゃない次元の心地よさが、たまりません。
特に、近年では『ブルージャスミン』の突き放しっぷりが、年間ベスト級に大好きでした。

今回のターゲットは哲学の教授。
研究対象の哲学と、自らの様々な経験によって、思考の袋小路に入ってしまった、ホワキン・フェニックス演じる教授のエイブ。
その教授に興味を持ち、ちょっかいを出すのが、エマ・ストーン演じる教え子女子大生のジル。
この二人と、エイブに言い寄る中年教員、ジルの本来の彼氏などの人物達が出会う事で、会話中心のストーリーが作られていきます。
そこに特別な事がなくとも、やはりウディアレンの作り出す物語...人と人の出会いで紡がれるストーリーは面白いし、何より何だかオシャレに見えます。

ジルがエイブを思考の袋小路から救うため(彼をモノにするため??)、様々な行動をするのですが、エイブのネガティヴは治らない上、一向に恋愛対象として見ようとしくれません。
しかし、ある出来事に遭遇した事で、彼は殺人の計画をたてるようになります。
自由である事、生の意義を感じ始め、自らを解放していく...
そんな、生と性と倫理が交錯してうねっていくのが、後半パートになります。

殺人という行為は絶対的な悪。
一方で、その行為によって救われる人がいる。何より、自らの苦悩が解放されていく。
この相反した見方や感じ方の人と人の間の食い違いを巧みに利用する事で、なんとも不思議な悲劇であり喜劇となっていきます。
救われない...いたたまれない...そんなストーリーが根本にあるはずなのに、
映画を見ている「自分」とは無関係な、滑稽で哀れだけど、興味深い、ある別の人生を見ている感覚は、ウディアレン映画独特ので、やはり大好きでした。
見終えた後、人生は豊かだなーと心地よい気持ちになりました。

ホアキン・フェニックスの役の説得力は流石の一言。
エマ・ストーリーは女子大生というのは無理がありましたが、やはりかわいい!!!
女性の「開き直り感が」生々しく、適度にイラっとしましたが....うん、彼女になら遊ばれたいです。

突き放しているのに、オシャレ面白い。
オシャレで面白いけど、人生の限界と豊かさを突きつけている。

そんな映画を是非劇場で!





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  1. 2016/07/04(月) 20:15:54|
  2. 2016年公開映画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

70『マネーモンスター』こんなはずじゃ...

ジョディ・フォスター監督最新作。
リアルタイム籠城サスペンス!

『マネーモンスター』



~あらすじ~
リー・ゲイツ(ジョージ・クルーニー)が司会を務め、その巧みな話術で株価予想や視聴者への助言を行う高視聴率財テク番組「マネーモンスター」。番組ディレクターのパティ(ジュリア・ロバーツ)の指示を聞かず、アドリブ全開でリーが生放送に臨む中、拳銃を手にした男カイル(ジャック・オコンネル)がスタジオに乱入してくる。彼は番組の株式情報によって財産を全て失くしたと憤慨し、リーを人質に番組をジャック。さらに放送中に自分を陥れた株取引のからくりを白日のもとにさらすようパティに迫るが……。
(シネマトゥデイ 引用)





☆☆☆☆☆☆☆(70/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
『タクシードライバー』や『羊たちの沈黙』で女優として圧倒的な存在感を放ち、近年は制作側でも力を発揮...
そんなジョディ・フォスターの監督第4作目は、アカデミー脚本賞の『マネー・ショート』等近年の映画で度々取り上げられる金融業界への不信を、サスペンスとしてエンターテイメントに展開。
テレビの生放送を利用したリアルタイム籠城劇です。

生放送で爆弾を持った犯人が籠城...
韓国映画の快作『テロライブ』を彷彿とさせるような、シュチュエーション。
下手な事をやらなければ、これだけでもう面白いに違いない!
設定だけで、もうそう思ってしまう大好物なジャンルムービー。
実際には、金融業界への皮肉を散りばめた展開なのですが、ルックは期待通りにシュチュエーションを活かしたエンターテイメントに。
そして、そんな脚本と監督に惹きつけられ集まったのが、元夫婦役を演じるジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツ。
ジャンルムービーにしてはなんとまぁ豪華...

ジョージ・クルーニーが演じるのは、巧みな話術と、悪ノリパフォーマンスを操る、人気財テク番組のスター司会者司会者リー・ゲイツ。
ジュリア・ロバーツ演じるできる女パティが、番組を裏から支えます。
いつものように、リー・ゲイツが台本を守らず進行する番組...
しかし突如、発狂状態の青年が、「カネを奪われた!!株暴落の責任者を出せー」と、爆弾を手に乱入していきます。
爆弾を巻かれたまま、逆撫でしないようになんとか真意を聞き出し交渉しようとするリー・ゲイツ。
彼を裏側でサポートしながら、主張の裏側の調査を始めるパティ。
「システムのバグ」が原因とされる株暴落の事実を語らせるべく、怒り狂う青年。
この三者のやりとりと、背後でサポートするスタッフ達の奔走。
作品に常に緊張感がまとわりつきます。


カネを奪われた単なる逆ギレ...と思いきや、次第に彼自身の、そして株投資の裏側の思わぬ事実がうかびあがり、物語が転換していきます。
当初は、「いや、そんな事で...」ってなる青年の動機。
実は...それだけのようで、それだけでない。
自分の間違いを認めたくなくて、何かに押し付けたくて、起こした足掻き。
それ自体もう間違いなんだけど、間違いだらけのクソ野郎が間違いに抗うべく、起こした間違い。
徐々に、その足掻きに共感、応援したくなってきました。

それは、登場人物達も同じで、リー・ゲイツや、パティの行動の目的も変わってきます。
この立ち位置の変位が、この映画の最大の旨味なのかなと。
しかし...しかし!
中盤にある人物によって、本人が、いや周りも期待した言葉とは全く違う言葉が叩きつけられた時、見ている方も地底に突き落とされました。
「おめぇの言ってる事は正論だけど!そこはそんな事...言うなよ...」
あぁ、こんなはずじゃなかったのに...


周囲の状況が変わり、彼を応援できるのは、彼の状況の実は...に加えて、株取引の裏側の実は...が重なってきて、こいつは1個目の間違い自体は悪くないよ!!ってなれるから。
しかし、そもそもの動機と物語の結果をよくよく考えると...たまたまだよね。となってしまうのは、勿体無いなぁーと。
そしてそれ以上にがっかりなのが、元奥さんへの本当の想いを犯人に打ち明けるシーン。
いや...状況...
ここでこの事件の現実味を剥ぎ取られ、心底白けました。


しかし、金融システム側を単に批判するだけでなく、間違いは間違いだとするバランス感覚はジョディ・フォスター監督見事だなと感じました。
この後味の苦さゆえの心地よさは、大好きです。


どちらにせよ、シチュエーションサスペンスとして、誰が見ても面白いエンターテイメントに仕上がってると思いますので、
是非見てください!




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  1. 2016/07/01(金) 22:11:23|
  2. 2016年公開映画
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