シネマ・ジャンプストリート

劇場公開映画を中心にレビュー 映画の良さと個人的感想を。

80『何者』気持ち悪い...(褒めてます!)

何者かになるという事??

直木賞受賞作の映画化!
『何者』

~あらすじ~
就職活動の情報交換のため集まった大学生の拓人(佐藤健)、光太郎(菅田将暉)、瑞月(有村架純)、理香(二階堂ふみ)、隆良(岡田将生)。海外ボランティアの経験や業界の人脈などさまざまな手段を用いて、就活に臨んでいた。自分が何者かを模索する彼らはそれぞれの思いや悩みをSNSで発信するが、いつしか互いに嫌悪感や苛立ちを覚えるようになる。そしてついに内定を決めた人物が出てくると、抑えられていた嫉妬や本音が噴きだし……。
(シネマトゥデイ引用)






☆☆☆☆☆☆☆☆(80/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
第148回直木三十五賞を受賞した話題作、朝井リョウ原作の同名小説の映画化!
監督を務めるのは、劇団畑出身で『愛の渦』の三浦大輔監督。
音楽は、日本を代表するDJ、プロデューサーの中田ヤスタカが担当という事でも話題を呼んでいます。
そんな日本の最前線EDMと、佐藤健、有村智恵、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生、山田孝之といった豪華な若手実力派俳優陣がアンサンブルし、まさに「今」の若者の苦悩やその本質を捉えながらも、ポップなルックを兼ね備える見事なバランスの作品になってます!

私自身、就職活動をしたのが約5年前。
まさしく、小説発売と同時期です。
SNSに代表されるよう情報に溢れる中で、画一化、形式化した就職活動。
SNS同様に僅かな言葉の中で、いかに人より優れた人間であると思わせる事が出来るか。
比べられ、そして落とされる。
それはつまり、優れた人間ではないという事...
「自分は必要とされていない」
そんな虚実だけが、ただただ残り、突きけられます。


就活対策会議と題した部屋に集まる五人の若者。
交わされるのは、何気ない軽やかな学生の会話。
しかし、就職活動が進むにつれて、表面的な普通の会話に透けて見えてくる腹黒い本心。
裏腹な言葉と内心が、作り出すサスペンスフルでキリキリした空気間が、本当に絶妙です!
そして、そのキリキリした空気が持ち込むのは、ただの緊迫感だけではありません。
そこには、私が経験した...というよりも自分にもどんぴしゃりで当てはまる、今の時代だからこその嫌味や悪意が満ち満ちていて、心底気持ち悪くなります。

特にその象徴となるのが、元劇団員の拓人と、里香。
冷静で何事も分析する拓人と、自ら行動を起こして意識の高い里香。
一見正反対に見える彼らですが、二人ともそのベクトルが次第に自分の擁護へと向き始めます。
拓人は人を下に見て引きづり下ろす事で、里香は偽の姿で必要以上に自分の正しさを強調する事で、自分の存在を確保します。
そうでもしないと立ってられないから。
まだ何者でもないと感じ(そしてそれは就職活動が進めば進むほど)、何者かになろうと取り組むこの時期。
そして、そんな中で今の時代の就職活動は、何者である事をあたかも否定してくる。。。
本当は、「就職活動が上手いか下手かだけ」なのに。
そんな状況で、辛うじて辛うじて辛うじて立っている為には、他人を卑下して、自分を誇張して、納得するしかないのです。
そしてその黒さは多少なりとも自分にも当てはまるからこそ、居心地が悪く、ハラワタをえぐられたように心底気持ち悪くなります。
そして互いにその化けの皮が...
あぁ!もうやめてくれ!!
(めちゃくちゃ褒めてます)

そんな中で最も存在感があるのが、拓人と同様に元劇団員ながら、就職せずに自らの劇団を立ち上げたギンジ。
見ていただけたら分かると思いますが、『桐島~』における、桐島的ポジションです。
彼だけは、自分の物語を生きています
夢を求めて生きる彼に対し、もちろん拓人は例のごとく「冷静な分析」により卑下します。
また、就職活動を通して自分の物語を見つける拓人の同居人である光太郎に対し、自分の物語を生きられない瑞月の立ち位置はなんとも今の物語です。
そんな正反対の光太郎と瑞月、そして拓人の三角関係がまた、表向きの軽やかな青春とか異なって、就職活動の嫉妬心とも絡み合い、より不快さを強調してくれます。

そして、終盤に訪れる、見る見られる関係の映画的な構図の展開。
本来なら見えるはずのない裏の本心も、今はSNS時代で、匿名で発信出来ます。
その現代性と演劇畑の監督の特性を生かした構図の転換に、ある驚きの仕掛けが乗っ掛かり、拓人を更にどん底に突き落とします。
軽薄さや薄っぺらさなんて、見られてるんだよ!!!
しかし逆に見てくれている誰かがいたからこそ、その視点を通して何者かである自分を認識し、自分の物語をようやく進められたのかも..,

重々しい感じで書いてますが、決してルックはそんな映画ではありません。
それはあくまで、朝井リョウ原作のテンポの良い青春群像劇だから!
分かりやすい形で悪意が露呈するのは時間にするとごく僅かで、殆どが違和感だけを感じさせます。
そしてもちろん、作品を中田ヤスタカのポップなEDMが彩るから!
まあだからこそ逆に、裏側の違和感が積み重なり、気持ち悪くなっていくのですが。

ポップなルックと、気持ち悪くなる(褒めてます!!!)本質。
是非劇場で見てください!!!






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  1. 2016/10/25(火) 20:45:09|
  2. 2016年公開映画
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65『SCOOP!』文春に取られるぞ!

ゲスよさらば...

大根仁監督最新作
『SCOOP!』



~あらすじ~
写真週刊誌「SCOOP!」に所属し、数々のスクープ写真を撮ってきたカメラマンの都城静(福山雅治)。しかし、今ではギャンブルに溺れている上に借金に追われつつ、フリーランスのパパラッチとして生活していた。そんな中、「SCOOP!」に配属されてきた新人記者・行川野火(二階堂ふみ)とタッグを組むことに。情報屋のチャラ源(リリー・フランキー)からのネタと場数を踏んできて培ったベテランならではの勘を武器に次々とスクープをものにする静たちだったが、やがて大きな事件に関わることになり……。
(シネマトゥデイ引用)








☆☆☆☆☆☆(65/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
『モテキ』や『バクマン。』など、躍動感のある痛快なエンターテイメント映画の名手!
大根仁監督の最新作。
特に『バクマン』のアニメーションのような動的な気持ちよさと、やるんだ!!という仕事への熱量を貫く事による、高揚感はほんと最高でした。
毎度毎度、日本のエンターテイメント映画も捨てたもんじゃないと感じさせてくれるのが、この大根仁監督の作品です。
そんな大根仁監督が、福山雅治と組む...しかも熱烈パパラッチ.,.
観ないわけにいかないでしょうよ。

元ネタは、1985年公開の『盗写 1/250秒 OUT OF FOCUS』。
『駆け込み女、駆け出し男』の原田眞人監督が、駆け出しの頃に手がけたテレビ映画です。
未見ですが、今作はかなり現代的に改変されているみたいです。
主演の福山雅治を囲うのは、今勢いのある俳優陣。
一番の主観になる新人記者の行川野火を演じる二階堂ふみはじめ、情報屋チャラ源のリリー・フランキー、野火の上司横川定子の吉田羊と、キャラクターとしての存在感は、やはり大根仁監督、全員際立っていました。
特にリリーフランキーの憎めないダメ人間っぷり、更にそれが行き着く姿は、あまりにハマってて最高でした。

ミーハーで言い訳ばかりの(今時な)若者の野火。
行き着いた仕事は、フリーカメラマン静をサポートする記者。
よくわからないまま、静に会ってみると、腕だけはあるが、ゆえに傲慢で、信念なくただただゲスネタを追いかける、セクハラゲス野郎でした。
いわゆる、めんどくさいイヤーなおっさんです。
最初は静に振り回され、スターのプライベートを侵して夢を壊すこの仕事サイテーと言っていた野火。
しかし、様々な手段を駆使し、静達と連携しながら事実を暴いていくにつれて、「この仕事サイコー」と言うまでに、仕事の魅力に惹かれていきます。
一方で、一匹狼のクソ野郎だった静も、野火のひた向きで仕事に惹かれていく様子を見て、次第に活力を取り戻し、「ある事情」から拒否していた報道ネタにも前向きになっていきます。
この過程で描かれる、「如何にして撮るか」がケーパー物として、非常に斬新で楽しいのですが、
それだけでなく、善悪ではなくて、何かに夢中になっていく者同士が互いに高揚していく展開も重なり、こちらも高揚していきます。
ああー仕事に熱い、大根仁監督の映画だなと。

作品の鍵となっていくのは、リリーフランキー演じるちゃら源。
静がクソ野郎であれば、ちゃら源は薬に溺れ人間生活を辞めてしまった、ダメ人間。
一方で、ヘラヘラしながらも静のネタをフォローしたり、野火の危機を助けてくれたりするから、憎めない。
元は良い人に違いない、、、
次第に、SCOOPのエースだった静が、何者になる事を葬り去った背景には、ちゃら源への負い目が関わっている事が明らかになっていきます。
彼の存在感や、彼のとる行動、そしてそれら背景を語りすぎなさが、エンターテイメントに止まらない闇を語り、この作品に奥行きを産んでいます。

そして、ラスト30分の衝撃の展開で話が一気に動き出すのですが、
ここからが、息の詰まる展開。
すでに時代に適合しなくなったダメ人間の退場、そして今の時代に適合していく若者へのバトンタッチが、スリリングにそしてバッサリと描ききります。

一方で、残念ならが乗り切れない要因があちこちに散らばっているのも事実です。
特にスリリングなラスト30分。
絵的に説得力のある引き継ぎを描きたかったのだろうご、彼女がそこにいる事によって...
やはり案の定...
お前のせいだろ!!!!
シンプルな息の詰まる展開からずらされます。
彼女がいないと、見た事ない程スリリングで面白いのに...

また、福山雅治のゲス描写が頻度の高すぎる故、時折胡散臭くみえてしまいました。
そしてそれ以上に、恋愛描写...いりますか!?
どっちつかずで終わる方が、間違いなくラストの写真でグッときたに違いないのに。
そもそも、あんなゲス男に惹かれる意味が全くわかりません。
顔ですか?
その後の道徳だーどうのこうの言う論争も。
何が言いたいの??どういう論点??本当に意味がわからないまま収束してしまいました。

惜しい...惜しい...
でも、躍動感含め、決して見所ない映画ではありません!!
是非劇場へ!





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  1. 2016/10/20(木) 18:53:51|
  2. 2016年公開映画
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75『ジェイソン・ボーン』彼の名は?

黄金コンビで復活!!

9年ぶりのシリーズ最新作。
『ジェイソン・ボーン』



~あらすじ~
ひっそりと暮らしていたジェイソン・ボーン(マット・デイモン)の前に、CIAの同僚だったニッキー(ジュリア・スタイルズ)が姿を現す。彼女はCIAが世界中を監視・操作するための極秘プログラムを立ち上げたことと、ボーンの過去にまつわるある真実を告げる。これをきっかけに、再び動き始めたボーンの追跡を任されたCIAエージェントのリー(アリシア・ヴィキャンデル)は、彼を組織に取り込もうとするが……。
(シネマトゥデイ 引用)






☆☆☆☆☆☆☆(75/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
ボーン三部作『ボーン・アイデンティティ』、『ボーン・スプレマシー』『ボーン・アルティメイタム』から9年。
ついに帰ってきた、ジェイソン・ボーンことマットデイモン。
そして監督には、シリーズを加速度的に面白くした『ボーン・スプレマシー』『ボーン・アルティメイタム』で、監督を務めたポール・グリーングラス。
こちらも、待ってました!

近年のアクション映画の在り方を良い意味でも、悪い意味でも変えたのが、このグリーングラス以後のボーンシリーズ。
その最たる特徴が、カメラワークとカット数。
それまでのアクション映画は、1000カット程度が普通とされていた中、『ボーン・スプレマシー』では数える事なんと4000カット以上...
手持ちカメラとハイテンポなカットで、映像を目まぐるしく変化させ、作品の中にある意味ドキュメンタリーチックにも見える程の臨場感や不安感を作り出します。
この手法は、96時間を始めとする、その後のハリウッドやヨーロッパ発のアクション映画に多大な影響を及ぼしましたが、実はこの手法は諸刃の剣。
臨場感を作り出しやすい一方で、チャカチャカアクションなんて揶揄されるように、整理して見せないと何が起こっているのかさっぱりに...
状況把握が出来ない上、映像アクションがもつ本来の動的なかっこよさすらも取り逃がしてしまいます。
グリーングラス自身もグリーンゾーンでは失敗してますし、96時間の続編なんかは何が何だか分からない映像ばかり見せられます。

しかし!
今作はやはりグリーングラス!
体調次第では酔ってしまうくらい、映像が動くのですが、しっかりと見やすく整理されています。
アクションの内容も多彩。
まさしく、ボーンシリーズのフルコース。
かといって、情報てんこ盛りの食べ放題アクションではありません。
アクションの連続がストーリーを紡いでいる事。
それらの要素一つ一つが、しっかりと楽しい要素を含んでいる事。
これら良質なアクション映画である必要条件が完璧に抑えられているからこそ、緊迫感が持続...いやいや、どんどん高揚し引き込まれて行きます。
ベルリンからラストまでの1時間は、ほとんどがアクションなのに、その多様な連続性にやられてしまいました。
これぞボーンシリーズ!なアクション満載ですが、現代の技術背景を含み、9年ぶりだからこそ出来る見事なアップデートがなされています。
ボーンシリーズお馴染み、待ってました!の、すれ違いアクションや人混みを活かした逃走劇。
ラストのカーチェイスの一部も、『ボーン・スプレマシー』の伝説シーンからの引用。
ああ、やっばりこの人分かってるな!
そして極めつけは、笑っちゃうくらいフレッシュなアクションもあります。
SWATハンパねぇ。

もちろんアクションだけではありません。
人物同士の対立軸がちゃんと立っているからこそ、見応えも。
特に今回のCIAが送り込む殺し屋(ヴァンサン・カッセル!)は、ボーンシリーズ過去最高最恐クラス。
それでいて、ボーンとは因縁が...
どちらかは死なないと決して終わらない予感。
こんな男臭全開の軸がたまりませんでした。

アリシア・ヴィキャンデルの役どころも素晴らしいかったです。
(というより、最高にかわいい。。。)
単なるヒロインに終わらない含み。
次作もあるとすれば、ラストに見せた決して語りすぎない彼女のそれが、ポイントになってくるはずです。
「CIAが世界中の情報を監視し、裏で操作することを目的とした恐ろしいプログラムが始動した」
新たな立ち向かう問題が始まる。
そういう意味での、今作は新章と位置づけられているのでしょう。

今作は、格段に進歩した科学技術はもちろん、移民問題やギリシャ危機、そして最も明らさまなスノーデンの告発など、様々な現代社会の問題をバックグラウンドになっています。
アクションの巧みさもさる事ながら、こっちこそがグリーングラスの作家性。
現代社会の影をテーマとしながら、エンターテイメントに仕上げるのが抜群なのです!


アクション映画としては、めちゃくちゃ面白い。
しかし、見終えた後では旧三部作の蛇足という印象だけが残っていました。
今までのボーンシリーズの最大の魅力、分からない事だらけだけど追われている...逆に懲らしめてやった物としては...
この話、正直必要でしょうか??
ボーンの新たに判明した過去が、どう見ても後から付けたものにしか見えません。

そもそも、今回の最大の問題とボーンの目的が直線上にありません。
少なくとも過去作は、自身の過去を探る事が、CIAの「自身の過去に関わる」非人道的な面を掘り起こしていました。
今作のジェイソン・ボーンの目的は復讐。
しかし、物語の一番の問題は、現実社会でも起こりうる、情報操作や行き過ぎたナショナリズム。
ボーンの復讐とは一致しない故に、お話がどこに向かってるかわからなくなっています。
ボーンがとってつけた過去を追うと、全然関係ない問題が解決した...
一体何の話を見てたのだろうと。

とはいえ、自身の謎を追い、自由を手に入れるという旧三部作のボーンの目的、シリーズの魅力を含めつつ、新たな問題に舵を切る為には、必要な繋ぎだったのかもしれません。
立ち向かう新たな目的が次作以降生まれさえすれば、アクションの気持ちよさをストーリーが更に加速してくれるはずです!

少なくとも、アクション映画としては間違いのないクオリティなので、是非劇場へ行ってください!



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  1. 2016/10/14(金) 21:53:16|
  2. 2016年公開映画
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90『ハドソン川の奇跡』美しい...

するべき事をする。

御爺イーストウッドの最新作!!
『ハドソン川の奇跡』



~あらすじ~
2009年1月15日、真冬のニューヨークで、安全第一がモットーのベテラン操縦士サレンバーガー機長(トム・ハンクス)は、いつものように操縦席へ向かう。飛行機は無事に離陸したものの、マンハッタンの上空わずか850メートルという低空地点で急にエンジンが停止してしまう。このまま墜落すれば、乗客はおろか、ニューヨーク市民にも甚大な被害が及ぶ状況で彼が下した決断は、ハドソン川への着水だった。
(シネマトゥデイ引用)






☆☆☆☆☆☆☆☆☆(90/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)
今年ベスト。
早すぎ?いや、全然早まってなどない。
少なくとも、洋画では今の所ぶっちぎりのベストです!!!!

今年86歳になった、映画界の生きる伝説、クリント・イーストウッド監督の最新作。
若かりし俳優イーストウッドの西部劇代表作『夕陽のガンマン』、イーストウッドを大スターに押し上げた決定作『ダーティーハリー』、最後の西部劇と言われる伝説的名作『許されざる者』、監督・俳優として集大成のような名作『グラントリノ』、日米両面から戦争を描いた『父親達の星条旗』『硫黄島の戦い』、直近では近代戦争から生まれる苦悩を描いた『アメリカン・スナイパー』など、上げればキリのない70年代から2000年代全てを代表する映画人。
特に『グラントリノ』は、私が映画好きになるきっかけを与えてくれた、オールタイムベストな作品です。
そんな御爺の特徴としては、出演者誰もが驚く早撮り。
その早撮りで出来上がってくる作品は、引き算式で、無駄なシーンや過剰な演出を削り取っているのに、感情を凄まじく動かす作品に仕上がってきます。
まさしく経験のなせる技。
イーストウッドのこの姿が、今作の機長とどんぴしゃりで重なります。

今作の舞台となるのは、2009年に発生した航空事故。
USエアウェイズ1549便が、ニューヨークマンハッタン区のハドソン川に不時着水するも、乗客が'奇跡的'に全員生還、両翼に大勢の乗客が立っている衝撃的な映像が思い出される、あの事故です。
今作は、ベテラン機長のサリーが悪夢で目がさめる、事故後から描かれます。

バードストライクによる両エンジン停止。
空港に帰着できないという判断により、機長判断でのハドソン川への緊急不時着。
世論にヒーローともてはやされる一方で、国家運輸安全委員会の調査により、「空港に帰還できたのではないか」と追及されます。
奇跡...ヒーロー...
これではまるで、無謀な事を挑戦したようではないか。
機長は自らの経験、鍛練に基づき、出来る事をやりきっただけです。
一方で、委員会の職員は、多方的な目線での原因究明という仕事をこなしてるだけですが、シュミレーションで少しずつ明らかになっていくのは、帰還可能たった可能性。
そんなはずはない...でももしかしたら...
無機質な聴衆と事故調査。
この二つが信念を不安定とし、機長を追い詰めていきます。

判断ミスでのニューヨーク大惨事の可能性。
そもそも判断ミスで、乗客の命を危険に?
まるで自己の経験や職務能力の否定。
つまりは万が一の操縦ミスも。
そして、もう一つ。
奥さんが思い出すのと同じタイミングで思い出すある事実。
考えてみてください。
彼も死を見た155人の一人なわけで...

あくまで事故後を中心に描いているのですが、
IMAXカメラで撮影された事もあり、航空シーンは非常にスリリングで見ごたえあります。
そしめその挟み込み方、時制の操り方が実に見事。
まずは冒頭の悪夢のシーンで、この作品の不安定さを作り出します。
そして、中盤での不時着シーン。
事故発生から、不時着、救助シーンを中心に、機長やキャビンアテンダント、航空管制官、乗客、消防士の群像を描きます。
このシーンが本当に美しい。
誰もがヒーローになりたいと思っている訳ではなく、目の前のやるべき事をやるだけ。
プロフェッショナルの集合が見せるニューヨークの良心のあまりの美しさに、涙が止まりませんでした。

そしてラストには操縦席をがっつりと、問題発生から不時着までのノーカット版で見せ、不安定さに対する答え合わせが行われます。
差し迫った状況の中での、これしかない機長の判断。
そして成し遂げてしまうプロフェッショナルな技術。
淡々とした演出なのに、ここでカタルシスが爆発します。

この映画を完璧と呼ばずに、何を完璧とするのか...
イーストウッド監督の集大成!
是非劇場で見てください!!
鬼オススメです。





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  1. 2016/10/06(木) 19:44:36|
  2. 2016年公開映画
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