シネマ・ジャンプストリート

劇場公開映画を中心にレビュー 映画の良さと個人的感想を。

☆8『ファーザー』多重の魅力に溢れた追体験映画

これぞ巧み。衝撃の認知症体験映画。

『ファーザー』



~あらすじ~
ロンドンで独りで暮らす81歳のアンソニー(アンソニー・ホプキンス)は、少しずつ記憶が曖昧になってきていたが、娘のアン(オリヴィア・コールマン)が頼んだ介護人を断る。そんな折、アンが新しい恋人とパリで暮らすと言い出して彼はぼう然とする。だがさらに、アンと結婚して10年になるという見知らぬ男がアンソニーの自宅に突然現れたことで、彼の混乱は深まる。(シネマトゥデイ引用)


8/10★★★★★☆☆☆

※注意 核心のネタバレはふせますが、情報をいれずに観た方がより楽しめる映画ですので、気になる方はここで引き返して下さい!

以下 レビュー(核心のネタバレなし)
著名劇作家であるフロリアン・ゼレールが自らの原作を元に監督と脚本を務めた本作。『羊たちの沈黙』などのアンソニー・ホプキンスが父親役を演じ、『女王陛下のお気に入り』などのオリヴィア・コールマンがその娘役を演じる。アカデミー賞主演男優賞を受賞したアンソニー・ホプキンスがキャリア最高の演技と称えられている一作です。

やべぇ映画を観たよ!

アンソニー・ホプキンスが演じる父親の、自宅での日常を捉える所から始まる本作。しかし、何かがおかしい...つい先程まで観ていた「過去の事実」がまるで嘘のように「今の事実」がねじ曲がっていく。
その戸惑いは彼自身も同じく感じており、つまりこの映画は、認知症の彼の認識がそのまま映像化されれた驚きの構造を持った映画になっています。

そんな認知症の主観を追体験させるような構成が提供する魅力は、只ならぬ物を見ている...そんな映像的快楽を感じさせる事にとどまりません。認知症の居た堪れなさを体感させると共に、終始不穏で宙吊り状態なサスペンス的な面白さまで感じさせる、めちゃくちゃ多重的な魅力ある映画になっています。

実力の無い人が安易にこの構成の演出をすると、意味のわかんなさだけが残る、散らかった映画になりかねないところ、そうなっていないのは劇作家フローリアン・ゼレールの監督としての手腕なのは間違いない?
一見舞台向きなストーリーと構図ではあるんだけど、「セットが次第に...」など、完全に映画的に計算し尽くして画面を作っている事がわかります。

そしてなんと言ってもアンソニー・ホプキンス、素晴らしいよ、素晴らしすぎる。アカデミー賞主演男優賞は授賞式でバタバタしたけど、これは取るべきして取ったでしょうと。身体を張るでも、イメージを変えるでもなく...只々素晴らしい演技で体現しています。
頑固なんだけどキョドってる感じとか説得力満点だし、ラストの演技もほんと凄まじく、見惚れてしまいました。

ぐうの音も出ない、オススメです!


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  1. 2021/05/28(金) 19:53:39|
  2. 2021年公開映画
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☆7『ジェントルメン』手際良さ際立つオジサンエンターテイメント

ガイ・リッチー節×豪華なおじさま

『ジェントルメン』




~あらすじ~
イギリス・ロンドンの暗黒街。一代で大麻王国を築き上げたマリファナ王のミッキー(マシュー・マコノヒー)が、総額500億円に相当するといわれる大麻ビジネスの全てを売却し引退するという情報が駆け巡る。そのうわさを耳にした強欲なユダヤ人大富豪、ゴシップ紙の編集長、私立探偵、チャイニーズマフィア、ロシアンマフィア、下町の不良たちが、巨額の利権をめぐって動き出す。(シネマトゥデイ引用)


7/10★★★★★☆☆
『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』『スナッチ』『アラジン(実写版)』のガイ・リッチー監督の最新作。マシュー・マコノヒーやチャーリー・ハナム、ヒュー・グラント、コリン・ファレルなどの豪華な面々が顔を揃えます。

帰ってきたガイ・リッチー節!大好き!!

大麻ビジネスの所有を巡る、悪いおじさんたちによる争奪戦。
ガイ・リッチーといえば近年の『アラジン』や『シャーロック・ホームズ』なんかが有名ですが、彼の出世作となった『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』『スナッチ』の彼独特の語り口に原点回帰した本作です。

スクープを持ちマフィアをゆすりに行く記者の語りをベースに、それを回想形式で映像に落として進んでいくのですが、「巻き戻し」あり「画角いじり」あり何でもありで、語っている側の視点で編集&再生していく独特な語り口が、うわーガイ・リッチーだな!という感覚がビンビンでまず最高でした。

そんな語り口の中で展開されるストーリーも、ガイ・リッチー感全開なんです。複数のわる~いヤツらが群像的に暗躍し、接点が生じる事で予定外な出来事に発展していく... そんな入り組んだ物語構造を手際良く展開していくのは流石ですし、群像劇の中での予期せぬ出来事から、ストーリーが横滑りしていく面白さと、そこで踊らされる登場人物の間抜けが凄い魅力的な映画になっています。

一方で原点の作品群と違うのが、それら作品では予定外の出来事の「起点になる若い連中」をメインに据えていた一方で、本作は「翻弄される中年」の側の話になっています。
これはガイ・リッチーの映画界での立ち位置の変化をトレースしていて、面白いなと感じました。

「おじさん、ちょっとテンパっちゃったんだ...」「おじさん、丸くなった風だけど本気出すとやばいんだぜ?」
そんな面白さ、好きなシーンもてんこ盛り。

キャラクターの魅力も立ってます。
内心煮えたぎる静かなるドンなマシュー・マコノヒー、優しそう故に実はヤバそうに見えるチャーリー・ハナム、肝の座った小物なヒュー・グラント。
全員最高なんだけど、中でもコリン・ファレル演じるトレーナーが大好き。若いやんちゃなボクサー達の良き師匠でありながら、実は悪事に対しても理由があれば躊躇なくやるというキャラクターがめちゃくちゃ魅力的でした!

ガイ・リッチーだからこそ可能な、独特の語り口による群像エンターテイメント、オススメです!!


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  1. 2021/05/19(水) 18:17:39|
  2. 2021年公開映画
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☆9『ミッチェル家とマシンの反乱』最高でした。

フィル・ロード×クリストファー・ミラーコンビのプロデュースアニメ。

『ミッチェル家とマシンの反乱』



~あらすじ~
映画学校に合格し、実家を出て新生活を送ることになったちょっと変わり者のケイティ・ミッチェル。家族の絆を深めようと、彼女を見送るロードトリップを父が計画する。気乗りしない上に気まずい雰囲気の中で出発すると、ミッチェル一家は突如勃発したロボットの反乱に巻き込まれてしまう。人間を捕獲すべくスマートフォンや家電製品までが牙をむく中、変わり者ぞろいの一家は人類を救うため立ち上がる。(シネマトゥデイ引用)

9/10★★★★★☆☆☆☆

以下 レビュー(核心のネタバレなし)
『LEGO(R)ムービー』シリーズ、『スパイダーマン:スパイダーバース』、『21ジャンプストリート 』など、アニメから実写コメディまで今やハリウッドNO1信頼度の仕掛け人フィル・ロード×クリストファー・ミラーのコンビが仕掛ける最新アニメーション。『21ジャンプストリート 』は当ブログ名の由来に使わせてもらったり、『スパイダーバース』はその年のマイナンバー1に選ばせてもらったり、大大大好きなコンビです!
その2人が今作ではプロデュースにまわり、新生マイケル・リアンダがメガホンをとります。

いやー本作も最高でした!!!

『スパイダーマン:スパイダーバース』では、アメコミコミックの世界観がアニメーションにそのまま落とし込まれたような、超デフォルメアニメーションが斬新で面白かった訳ですが、本作はそれが落書きによる超デフォルメに起き変わったファミリームービーです。

拡張された過剰な情報量が、映画全体の世界観やリアリティラインを構築して、それをベースに突っ走っていく所は本作も健在でした。
本作のロボットが暴走する世界観や家族が抱える問題と個々のパーソナリティを定義するだけではなくて、落書き含めて現実を超越したリアリティラインが巧みに前半で定義され、そしてその超デフォルメなリアリティライン上で一気にテンションがドライブしていく後半、伏線の回収も見事で感情が大大大爆発しました。

好きなシーンが山ほどある。
ファービーの...、いっぬーの目が... 母の覚醒... ファミリーヒーロー結成の瞬間...
最高だ!!
本来なら突っ込みどころの筈の展開も、逆に楽しめちゃうような要素になっていくから、面白さのドライブが止まらない止まらない。
突っ込みどころが好きなシーンに変わる、フィル・ロード×クリストファー・ミラーのコンビの稀有な作家性ですね。

そんなデフォルメされたアニメーションと怒涛の畳み掛けの中で、展開される家族の物語もグッときちゃうのがまた凄い。
親を疎む子と子離れ出来ない親、片方だけでなく両方の成長があっての着地になっていくのが良くて、普通に普通に泣いちゃったよ。

滅茶苦茶な展開が加速していくにつれ、無茶苦茶にテンションが上がっていく、無茶苦茶な劇薬アニメ。

マジ最高じゃねぇか!!オススメです!!


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  1. 2021/05/14(金) 13:27:54|
  2. 2021年公開映画
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☆6『ホムンクルス』さて、何が見えるのか!?

非主観要素の映像表現!

『ホムンクルス』



~あらすじ~
記憶と感情をなくした状態で、高級ホテルとホームレスがひしめく公園のはざまで車上生活を送る名越進(綾野剛)。そんな彼の前に医学生の伊藤学(成田凌)が現れ、頭蓋骨に穴を開け第六感を芽生えさせるトレパネーション手術を報酬70万円で受けないかと持ち掛ける。手術を受けた名越は、右目だけをつむると人間が異様な形に見えるように。伊藤は異形たちをホムンクルスと名付け、他人の深層心理が視覚化されて見えているのだと説明する。(シネマトゥデイ引用)

6/10★★★★★☆

以下 レビュー(核心のネタバレなし)
2011年までスピリッツで連載された山本英夫のカルト的人気を誇る同名コミックを、『犬鳴村』などのホラー畑の清水崇が監督。『ヤクザと家族』などの綾野剛が主演を務め、『愛がなんだ』などの成田凌と岸井ゆきのら、実力派俳優が脇を固める。

4月2日に劇場公開され、先日netflixにて早くも配信開始。随分早いなと思ったら、劇場が期間限定上映だったのね。

トレパネーション手術を受けた綾野剛演じる名越進。その手術がきっかけで見えてなかった"ある物"が見えるようになる...そんなサスペンスホラー。

今作は、"ある物"が見える事になった事で周囲ので人々と奇妙な形で向き合う事になるホラーヒューマンドラマ的な前半と、「トレパネーション手術」に纏わる隠された真相に近づくサスペンス的な後半にわかれます。

そんな前半部分において...
普段人の主観では見る事の出来ない要素を主人公が見えるようになり、それを映像表現で追体験させでくれるのですが、「普段自分の見ている世界=主観は、果たして本当に正しい姿なの?」という疑問を映像表現する目新しさが強烈です。

そんな「普段主観で見えない要素の映像表現」って所に映像的な面白さがあるのだけど、それを軸にエモーショナルに展開されると...
漫画だと余白が多い為フィクションとして受け入れられるけど、映像にすると「嘘っぽく、わざとらしい展開になる」って所までは拭いきれないなと感じてしまいました。

また後半に行くにつれて、サスペンス要素へ広がっていくのですが、それ故に加えられた原作からの脚本の改変部分にチグハグさが感じられます。
劇映画的に後半盛り上げようとした事で、黒幕的な彼のホムンクルスへのそれまでの言動と後半明らかになる内面的な動機の間に、不可解さが生じているように感じました。


ただ、映像だけで見ると、斬新な描写はじめ、めちゃくちゃ良いと思う所が多く、それだけで全然引き込まれるのは確かです。
また、全体の黄色味がかかったタッチは作品のトーンとめちゃくちゃ合ってるし、骨の振動が伝わる手術描写や開眼を表現するショットなど画作りが素晴らしかったです。

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  1. 2021/05/07(金) 18:00:04|
  2. 2021年公開映画
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☆7『ラブ&モンスターズ』等身大な抜け感が心地良い!

モンスターアドベンチャー×青春映画!

『ラブ&モンスターズ』



~あらすじ~
突如出現したモンスターから逃れるため、全ての人類が地下コロニーでの生活を強いられている世界。ジョエル(ディラン・オブライエン)は無線を通じて、モンスターの襲来以来行方知れずだった高校時代の恋人エイミー(ジェシカ・ヘンウィック)が生存していることを知る。再びエイミーに対する熱い思いが込み上げたジョエルは、130キロメートル離れたコロニーで暮らしている彼女と再会しようと決意。モンスターが暴れまわる中を突き進んでいくが、さまざまな危険が降り掛かってくる。(シネマトゥデイ引用)

7/10★★★★★☆☆

以下 レビュー(核心のネタバレなし)
netflixオリジナル映画。
『ファイブ・ウォリアーズ』のマイケル・マシューズがメガホンをとり、『メイズ・ランナー』などのディラン・オブライエンが主演、「Marvel アイアン・フィスト」などのジェシカ・ヘンウィックや「ウォーキング・デッド」などのマイケル・ルーカーらが共演する。
先日のアカデミー賞で、視覚効果賞にノミネートされていた、モンスターアドベンチャー映画です!

ジャンルムービー的なnetflixオリジナル映画って山ほどあるのだけど、年々その質が上がっているなと感じる一作になっていました!

巨大化した生物に人類文明を滅ぼされた...
その数年後、ヘタレな青年が生き別れた彼女に会いに行く為、意を決してモンスターが生きる地上へ彼女を探す旅に出る!そんなモンスター×青春映画になっています。

今作は迫力全面推しのモンスターパニックメインな映画という訳ではなく、ティーン物の感覚に近いような緩い雰囲気が魅力的な作品です。
だからといって、モンスター描写に手抜きはなく、視覚効果賞にノミネートされるのも納得で、モンスターのエグさと可愛げが同居するようなルックの描写が最高です。

そしてキャラクターですよね。
モンスターに退治する主人公の動機が「好きな子に会いに行く」という緩さがストーリーのアイデンティティになっており、この程よい抜け感が心地よい。
また、旅の途中に遭遇する仲間たちが、また凄い良い。この世界での生き方を彼に授けてくれる2人組の、この世界で生きていけるギリギリお人好しな感じ最高だし、なんといってもベストオブパートナーの犬ね!
犬!犬!いっぬ~!!!!!
キャラクターの悲惨なはずの背景も、バンバン出すわけではなく余白を持って小出ししており、作品の軽いトーンを怖さず良かったです。

この映画のラストの落とし所も好きだよそりゃぁ!って感じ。旅に出る時から引っかかってた「いやお前...」ってある盲目的な要素が、ラストの展開として回収してくれる、ある意味中二病的だった主人公の成長に、待ってました感を全開で感じさせてくれます。

正直唐突に感じる展開ってのが何箇所かあって荒削り感はあるんだけど、モンスター描写の魅力とか犬含めたキャラクターの魅力、作品全体の抜け感の心地よさで、面白いが余裕で勝つ。

オススメです!

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  1. 2021/05/07(金) 12:50:15|
  2. 2021年公開映画
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