シネマ・ジャンプストリート

劇場公開映画を中心にレビュー 映画の良さと個人的感想を。

☆8『映画大好きポンポさん』映画製作のロジックを熱量×メタ展開で!

ポンポさんが来ったぞー!!

『映画大好きポンポさん』



~あらすじ~
映画プロデューサーのポンポさんのもとで製作アシスタントをしている青年ジーンは、観た映画を全て記憶している映画通だが、映画を撮ることは自分には無理だと思っていた。しかし、15秒のCMをつくったことから、彼は映画づくりの楽しさに目覚める。そして、彼はポンポさんに大ヒット間違いなしの映画の監督に指名される。(シネマトゥデイ引用)



8/10★★★★★☆☆☆

以下 レビュー(核心のネタバレなし)
イラストコミュニケーションサービス「pixiv」に投稿され、「マンガ大賞2018」で10位に入った杉谷庄吾によるコミックのアニメ映画化。
監督、脚本を、『魔女っ子姉妹のヨヨとネネ』などの平尾隆之が務め、『この世界の片隅に』などに携わったスタッフが立ち上げたCLAPがアニメーション制作を行った本作。

NISHIKIさんが、みったよ~!!

『雨に唄えば』や『カメラを止めるな』など、映画製作の側面を題材にした映画は数多くあるが、本作は一味も二味も異なります。
もちろんアニメーション映画って所もそうなんですが、「映画製作の全貌を網羅しつつ、ファンタジーで丸め込んでいる」そんな映画製作愛暴走映画になっています。

本作の主人公は、映画監督に大抜擢された映画オタクの青年ジーン。天才プロデューサーであるポンポさんに、「目に光がなく、世の中を斜めにみるくすんだ目」を評価され、監督に抜擢されていきます。
現実ではありえないこの抜擢で、主人公=俺だ!と画面の前のオタクを掴みつつ、配役、脚本、撮影、編集、再撮影、投資、試写... カッコ付きではあるが映画制作の各シーケンスの肝を、編集を分断に前面に出したデフォルメ表現によってダイナミックに気持ちよく、ファンタジーとして展開していきます。映画が出来上がっていく過程が気持ちよくて、めちゃくちゃ上がるんです。

そんな中、本作の山場は映画の編集になります。編集という、ぶっちゃけ地味な場面を山場にする狂気の沙汰なんですが、「約72時間」という素材を映画の尺にまとめるというミッションに対して、主人公が立ち向かっていく展開を、超絶多層的メタ的演出で畳み掛ける事でめちゃくちゃ面白く仕上げています。

例えば...
主人公が作る映画の中、つまりは劇中劇における主人公はオーケストラの指揮者で、Meisterという楽曲への向き合い方で苦悩に陥いるのですが、これが本作の主人公ジーン自身の編集作業における「教科書通りにつくる事」への気付きにリンクします。それだけではなく、「何に焦点を当て、何を切り捨てるか」という乗り越える所が、劇中劇の中身とジーンの編集作業、更にはジーン自身の人生と見事にリンクして畳み掛けられるので、その熱量に圧倒され涙が溢れ出てきました。

また、ポンポさんが語る映画論っていうのがあって、それが良し悪しは置いておいて、我々が観ているこの映画自体のフォルムにも見事にリンクしてて楽しいんです。
本作でポンポさんは「編集=映画の全て」なんて事を言うんですが、それがこの映画の見せ方にも繋がっています。ポンポさんの「いかに演出を駆使して90分で見せ切るか」という言及に対し、この映画自体が編集により90分で映画製作過程全てを見せ切るという所に着地出来てるし、劇中劇も当然そこに着地できているし、めちゃくちゃ気持ちよく出来ています。

ただどうしても、冷めてしまったのが一点...
「投資」という側面も組み込まれてるのご素晴らしいし、ジーンの人生が編集作業にリンクする説得パートは熱量ダダ漏れで涙なんだけど...
なんだけど...そこの最後の一押しの手法はモラル的に完全にナシでしょ...
そこまでやってしまうと、「良い映画作れれば、他の人など関係ねぁ」みたいな狭視的な、利己的な映画に見えてしまう...

そんな負の側面なければ、今年ベスト級なんだけど...

映画製作のカッコ付き全過程の肝を、ファンタジー的編集とメタ演出の嵐で見せ切る、映画製作愛爆発映画。暴走し過ぎてモラル的にアウトな要素はあれど、、その熱量に涙涙でした!

超絶オススメです!!


  1. 2021/06/23(水) 18:18:05|
  2. 2021年公開映画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

☆7『キャラクター』ビジュアルと画面の力が素晴らし過ぎる

漫画家と殺人鬼の共依存。

『キャラクター』



~あらすじ~
漫画家のアシスタントをしている山城圭吾(菅田将暉)は、画力は高いが、お人好しな性格のためか悪役をリアルに描けない。ある日、圭吾はスケッチに訪れた一軒家で、殺害された家族と犯人(Fukase)の顔を見てしまう。圭吾は犯人をモデルにキャラクターを創り上げ、ついに売れっ子漫画家になるが、漫画をなぞるような事件が次々と発生。そして、犯人の男が圭吾の前に現れる。(シネマトゥデイ)



7/10★★★★★☆☆

以下 レビュー(核心のネタバレなし)
『帝一の國』などの永井聡が監督を務める本作。オリジナル脚本を担当するのは、漫画原作者として「MASTERキートン」などを手掛けてきた長崎尚志。
若手NO1俳優の菅田将暉が売れない漫画家を、本作が俳優デビューとなる「SEKAI NO OWARI」のFukaseが殺人鬼を演じる。また、小栗旬や高畑充希、中村獅童という錚々たる面々が顔を揃える。

本作の魅力は、大きく3点。

まずは、漫画家と殺人鬼の共依存、っていう設定が面白すぎる。Fukaseが演じる殺人鬼は菅田将暉演じる山城が書いた漫画を元に殺人を行うし、山城は殺人鬼からインスピレーションを受けて漫画を描いていく。決して一方通行ではなく、それぞれの分野でそれぞれが共作を作っていく、そんな物語の枠組みがめちゃくちゃフレッシュなんです。

そして、そんなフレッシュな枠組みを支えるのは、日本映画の枠組みを大きく飛び越えた映画のビジュアルです。PG12でよくいけたなという残酷描写もそうですが、それ以外の描写も含めて、まるで韓国映画さながらの重厚感が漂っています。目を釘付けにする画面の力はお見事で、特に主人公が追い込まれていく終盤に向けて、息を忘れるほど画面に引き込まれていきます。

そして三つ目が、何といってもFukase演じるサイコキラーの存在感。我々の常識だと狂った言動なんだけど、1mmたりともおかしくないと思っている感じが明確に滲み出てていて、マジで怖いやばい。彼の存在感が映画の格を一段も二段も引き上げているのは間違いないです。

ただ、ストーリーの素材の良さを殺してる、無理矢理否めない導入や後出し謎解き展開、無能な捜査など、展開脚本の粗が目立つのが、残念な所。
なんて言うか、勿体ない...
特に気になったのが2点。
菅田将暉演じる漫画家のスタンスの取り方が、描き込みが不十分で不可解なのと、警察の捜査がストーリーの都合で動いてる感ビンビンで、ノイズになってました。
作中に「サイコキラーのキャラクターにリアリティがない」という台詞があるが、そっくりそのままこの映画の一般人側へブーメランしているのではないでしょうか。

とはいえ、魅力がめちゃくちゃ大きな作品。
ハマる人にはハマる事間違いなし!







  1. 2021/06/19(土) 23:33:35|
  2. 2021年公開映画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

☆9『Mr.ノーバディ』87Northが撮る傑作舐め殺映画!

タイトで完璧な92分の舐め殺映画!

『Mr.ノーバディ』



~あらすじ~
さえない中年男のハッチ・マンセル(ボブ・オデンカーク)は、職場では実力が評価されず、家族からも頼りない父親として扱われていた。ある夜、自宅に強盗が押し入るも暴力を恐れた彼は反撃できず、家族に失望され、同じ職場の義弟にもばかにされる。鬱憤(うっぷん)を溜め込んだハッチは、路線バスで出くわした不良たちの挑発にキレて連中をたたきのめす。この事件をきっかけに、彼は謎の武装集団やロシアンマフィアから命を狙われてしまう。
(シネマトゥデイ引用)


9/10★★★★★☆☆☆☆

以下 レビュー(核心のネタバレなし)
究極のPOVアクション映画である『ハードコア』(酔う!)のイリヤ・ナイシュラーが監督を務める本作。ドラマ畑で活躍するボブ・オデンカークが主演を務める他、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドクことクリストファー・ロイドなどが共演する。
注目は、いまやハリウッドアクションの最高峰で、凄いアクション映画のバックボーンには必ず関わっているアクション監督/スタントマン集団の「87 eleven action design」改め、映画制作会社「87North productions」が制作をした本作。『ジョン・ウィック』シリーズなどのデヴィッド・リーチがプロデュース、デレク・コルスタッドが脚本を努めます。

減点なし!加点だらけの最高アクション映画!!

本作はいわゆる、「舐めてた相手が実は殺人マシンでした映画」(byギンティ小林さん命名)。
最短距離でカタルシスを爆発できるフォーマットであり、古くはスティーヴン・セガール主演の沈黙シリーズに始まり、定型的な映画の形を確固たるものにした『96時間』、超几帳面なキャラクターを上乗せした『イコライザー』、スタイリッシュを極め切った『ジョン・ウィック』など、特に近年傑作映画を乱発していました。

そんな中での本作は、「舐めてた相手が実は殺人マシンでした映画」の二番煎じか...?と言われると、最良の意味で「YES!」そして「NO!」と言える作品になっています!

まず、どういう所「YES」なのか。
90分強という尺で、この手の映画に求めている要素が分断に詰められていて、舐められるシーケンスからカタルシス爆発まで、一瞬たりとも退屈する事なく、感情を揺さぶり続ける、そんな映画になっています。
前述した映画とそれに付随する数多くの映画の中でも、最も無駄なくスキなく、フォーマットを完全攻略しているといっても過言ない、その位「完璧な」92分なんじゃないでしょうか。

では、どういう所「NO」なのか。
一つが「舐められ方」がとにかくフレッシュ!
見た目が普通のおじさんっていうのも凄く良い上、守るべき「家族」からの舐められ具合がリアルで最高of最高。彼が「何者か」というのは誰も家族も知らないのですが、それは彼が普通の人であろうとしているからで、「普通の人で有ろうとすればするほど、家族から軽蔑され舐められる」ってバランスがフレッシュで凄まじく面白い。
この手の映画の中でも、ここまでリアルな心象で「舐められている」男っていたでしょうか。

そして、そんな日常の描き方、見せ方がフレッシュ!
エドガー・ライトを彷彿とさせるようなテンポをきざむ編集で、秒速で主人公の置かれた家庭内ポジションに、楽しませつつも感情移入させる手際の良さは見事でした。
また、その中で「実はこの人、出来んじゃね?」って最小限の違和感を残すのも見事です。

そして最後に、アクションもフレッシュ!!
「87North productions」が関わっている事からもわかる様に、アクションのベースラインが高いのはさることながら、そのテイストが『ジョン・ウィック』や『アトミック・ブロンド』のそれとは全然違っていて、不完全で肉体ごと突っ込んでいく...気持ちで戦うような戦い方になっています。
これは本作の主人公が、前述の映画のアクションとは異なった動機を持っているからで、「日常の鬱憤」からの爆発を表現する様に、八つ当たり的でぼろぼろになりながらのアクションが超絶最高でした。

間違いないフォーマットを、最大級にスキ無く活かしつつ、フレッシュな面白さがふんだんな、新たな「舐めてた相手が実は殺人マシンでした映画」の大傑作!

超絶オススメです!!


  1. 2021/06/14(月) 18:00:00|
  2. 2021年公開映画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

☆8『オキシジェン』傑作ワンシチュエーション・スリラー

『オキシジェン』



~あらすじ~
目を覚ますと、極低温装置の中にいた女性(メラニー・ロラン)。自分が誰なのか、どうして装置内に閉じ込められているのかといった記憶がまったく無いことに、彼女は激しく戸惑う。酸素が次第に減少していることに気づいた彼女は、記憶を取り戻そうとしながら脱出するすべを見つけようとする。

8/10★★★★★☆☆☆

以下 レビュー(核心のネタバレなし)
『ボーンズ』や『ルイの9番目の人生』など、野心的な作品を手がけるアレクサンドル・アジャ監督の最新作。ほぼ100分独演で治療用ポットに閉じ込められた女性を演じるのは、『複製された男』や『6アンダーグラウンド』のメラニー・ロラン。

目が覚めたら密室の治療用ポットの中。
自分が誰なのか、何故ここにいるのか分からない...そんな中で唯一分かるのは、酸素が無くなりつつある事...
「え...誘拐されて、放置された!?!?」
ポットに搭載されているアシスタントAIとの会話を通し、外部とコンタクトを測って助けを求めたり、自分が何者なのかを調べていくと...驚愕の事実に辿り着いていきます。

そもそもワンシチュエーション・スリラー大好物人間なんですが、この手の映画の肝といえば、いかに緊迫感を引っ張れるか。そういう意味でも、本作は満点に違いんじゃないかと思います。
酸素が無くなっていく状況=タイムリミット設定の中で、信じられる情報が何もないと言う所が非常に上手く活きていて、AIを通して得られる情報や何とか接触出来た人の存在、更には蘇ってきた自分の記憶など、全ての情報の信憑性に疑いを向けられる構成になっており、それによる状況の推理が二転三転する展開に、全く飽きさず引き込まれ続けました。

更に、治療用ポット内という設定も上手く活かされています。酸素が無くなっていく中で、強制治療モードみたいなのが発動されたりして...
痛々しい場面も多々ありながら、タイムリミットに対して入ってくるポット側からの横やりが非常にフレッシュですし、時には合理的故に矛盾ある治療提案なんかしてきたり笑えるシーンもあって良かったです。

この映画自体、当初の「え...誘拐!?」ってところに対して、結末が「そういう話!?」という驚愕の方向に向かって行くのですが、ここではその内容は記載しません。
どれだけ引き込まれ続けたかによって、ポジティブな驚きになるかネガティブな驚きになるか、人によって変わるのではないでしょうか。ちなみに、私は「ヤベェ映画観た!最高!!」とめちゃくちゃポジティブに驚愕の結末を受け入れました。

ただし...
アシスタントに展開上都合の悪い情報を答えさせないなど、ご都合主義的な要素も多い作品なのも確かです。
ですが、個人的にはそんなの気にならないくらい、のめり込みました!

全ワンシチュエーション物が好きな皆さん、オススメです!!


ランキング登録しました。

気に入っていただけた方は、下記クリックをお願いします^ ^

にほんブログ村 映画ブログへ

  1. 2021/06/06(日) 22:47:15|
  2. 2021年公開映画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

☆7『くれなずめ』ち○ちんには敬意を払えよ!

松居大悟監督×ノスタルジー映画と見せかけて...

『くれなずめ』



~あらすじ~
高校時代に帰宅部だった6人の仲間たちが、友人の結婚披露宴で余興をするため5年ぶりに再会。久々に出会ったアラサー男たちは、披露宴と2次会の間の中途半端な時間を持て余しながら、青春時代の思い出話に花を咲かせる。彼らは今までと変わらず、これからもこの関係は続いていくのだろうと思っていたが、ある出来事が起きる。
(シネマトゥデイ引用)



7/10★★★★★☆☆
『君が君で君だ』や『バイプレイヤーズ』の松居大悟監督の最新作。主宰する劇団「ゴジゲン」のオリジナル舞台劇を自ら映画化した作品。『窮鼠はチーズの夢を見る』などの成田凌が主演を務め、『アンダー・ユア・ベッド』などの高良健吾や若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、目次立樹らが脇を固める。

帰宅部6人が友人の結婚式で再開し、余興を披露する。学生時代を思い出すノスタルジー映画かと思いきや、2クセ3クセある狂ってる映画でした!(褒めてます!)

本作で少し話題になったのが、予告で明かされる「ある要素」。ネタバレじゃね?と。しかし、本作を見ると、むしろ「ある要素」を知っている前提で作られてる事に気がついていきます。
昔を懐かしんで、わちゃわちゃしてるように見えて、感じる奇妙さと違和感があるのですが、その理由を推測できる立場でその奇妙さを味わうから楽しい、そんな映画になっています。

そしてそんな奇妙さを楽しんでいると、作品が進むにつれ、この映画は「誰目線」の映画なのかというのが次第に紐解かれていき、映画全体の構造がはっきりと見えてきます。
現実に見えた映画が、「誰目線」の映画なのかが分かるにつれて抽象化していき、最終的にはトンデモ描写に行きつくのが凄まじい映画になっていました。

終盤に行くにつれ顕著なのが、普通の映画だとバシッと決まる所が決まらないし、感動させそうなところが感動させてきってくれないし、終わりそうなところでも終わらない。
凄い「。」を打つことを嫌がって、のらりくらり演出していて、それがテーマにも帰着してて青春の一つの良さを感じさせてもくれます。
全く予想できない方向に転がりながら、のらりくらり終わらない。なるほど確かにこれは「くれなずんで」やがる。

俺もくれなずみてぇー!


追伸...

YouTubeはじめました。
もし良かったら、みて下さい^_^


【NISHIKIの映画の部屋】
https://youtu.be/kvlC4rh1PYQ



ランキング登録しました。

気に入っていただけた方は、下記クリックをお願いします^ ^

にほんブログ村 映画ブログへ


  1. 2021/06/02(水) 23:51:49|
  2. 2021年公開映画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0