『空白』
~あらすじ~スーパーの化粧品売り場で万引きしようとした女子中学生は、現場を店長の青柳直人(松坂桃李)に見られたため思わず逃げ出し、そのまま国道に飛び出してトラックと乗用車にひかれて死亡してしまう。しかし、娘の父親(古田新太)はわが子の無実を信じて疑わなかった。娘の死に納得できず不信感を募らせた父親は、事故の関係者たちを次第に追い詰めていく。(シネマトゥデイ引用)
9/10★★★★★☆☆☆☆以下 レビュー(核心のネタバレなし)『ヒメアノ~ル』や『さんかく』、今年公開された『BLUE/ブルー』の吉田恵輔監督の最新作で、古田新太と松坂桃李が共演する「かなりエグい話」という事で、公開前から話題になっていた作品です。
個人的に吉田恵輔監督の作品って所で、日本人映画監督の中でも一二を争うくらい好きな映画監督なんですが、この監督のどういった作家性が好きなのか...
一つは人間関係の曖昧さや危うさみたいなのが描くのが凄い上手いんです。「主観」のぶつかり合いで形成される人間関係の中で、相手の「主観」を100%理解する事は到底出来ない。なんだけど、映画の観客という立場ではお互いの「主観」が見える。つまり、その噛み合わなさが明確に見えるのが映画であって、その噛み合わない危うさや気まずさを見せるのが吉田恵輔監督は抜群に上手い。そんな噛み合わなさを、「サイコスリラー」や「ラブコメ」で、悲劇とコメディの絶妙バランスで見せてきたのフィルモグラフィーになっています。
そしてもう一つの特徴が、「一見平凡そうに見える日常の中で、見えてなかった何かが見える事で、映画の中盤で物語の見え方が大きく変わる」所にあるのかなと思います。その見えなかった何かというのが、「誰かの主観」であったり、新たな存在であったりするのですが、それによってジャンルが飛び越えるレベルで、映画の見え方が一変するという所も、この監督の面白い所になります。
それに対して本作は...
吉田恵輔監督の作家性を、シリアス方面にチューニングされた大傑作でした!
本作でメインとなる2人。古田新太演じる粗暴で昭和気質な父親は、突如事故によって娘を亡くしてしまいます。その事故のきっかけを作ったのが松坂桃李演じるスーパーの店員で、彼女が万引きをしている現場を見かけ彼女を追っかけた結果、事故に繋がってしまいます。
事故の原因をスーパー側の過失を執拗に調べる父親と、精神的に追い込まれていくスーパーの店長。
この2人の主観とその噛み合わなさの描き方が絶妙で、父親の横暴さと不寛容、スーパー店長の罪悪感、それらの裏には自己防衛的な不完全で人間味のある感情も見え隠れしていて、それぞれにめちゃくちゃ共感出来てしまうんです。
そしてそんな2人の噛み合わなさが、次第に周りにも波及していきます。
事故とその後の展開に巻き込まれた人達も、群像劇的に描かれていくのですが、「店長を懸命にサポートするパート」、「不運に事故の運転手になった女性とその母」、「暴走する父親を近くで観る部下」、そして「亡くなった女の子の学校の担任」、それぞれに弱さと人間味、共感できる主観の視点が入っていて、全員の物語が感じ取れるようになっています。
メインの2人に限らず、登場人物それぞれによって異なる見えている物、目的、想い。本当の意味でみんな理解しえない、だからこそ言葉の刃を刺し合い、事態がコントロールが効かない状況下で深刻化していく。
まるで日本版の『スリー・ビルボード』で、不完全な人間だからこその噛み合わなさと負の連鎖が、終始ヒリヒリさせる。本当辛かったです...(もちろん褒めてます!)
ただ、本作でも「不条理さ」と同列に「救い」も描くんですよね。「救い」に感しても、「コントロール下にない状況」で訪れる描き方がめちゃくちゃさり気なくて、大号泣ですよ。3回くらいポジティブな意味で泣いちゃいました。
この辺り、吉田恵輔監督の信念なのかなと思うんですが、楽観的にも悲観的にもならず、「人生は辛いし温かい」って視点が見て取れます。
また、本作出てきた役者陣、全員最高でしたね。
古田新太の演技は「視野がどんどん狭くなっていく父親」が憑依していたし、松坂桃李は『あの頃。』『孤狼の血』からの振れ幅で全く違和感ないのは驚愕。「店長をサポートするパート」の寺島しのぶは噛み合わない「主観」の痛々しさが最高でしたし、古田新太の部下役の藤原季節は粗暴な古田新太への共感を後押しするのに絶妙に効いていたいました。そして何より片岡玲子さん!本作随一の名シーンがあるんですが、彼女の熱演無ければ本作のラスト30分は成り立たないくらい素晴らしかったです。
不完全な人間だからこその噛み合わなさ。
「不条理」な負の連鎖にヒリヒリさせられ、「救い」に涙する大傑作...
超オススメです!!
- 2021/09/27(月) 23:09:24|
- 2021年公開映画
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『シャン・チー/テン・リングスの伝説』
~あらすじ~
犯罪組織を率いる父親(トニー・レオン)に幼いころから鍛え上げられ、最強の力を持ったシャン・チー(シム・リウ)は、組織の後継者とみなされていた。だが、彼は自らの力を封印し、過去の自分と決別してサンフランシスコでホテルマンとして平凡に暮らそうとする。だが、伝説の腕輪"テン・リングス"を操る父親が世界を恐怖に陥れようとしたため、シャン・チーはついに封印していた力を解き放つ。
(シネマトゥデイ引用)
8/10★★★★★☆☆☆以下 レビュー(核心のネタバレなし)『アベンジャーズ』シリーズなどマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の25作目。久しぶりの新たなヒーローの誕生譚を描く作品であり、シリーズ初めてメインでアジア人ヒーローを描く作品でもあります。
監督を務めるのは『黒い司法 0%からの奇跡』『ショート・ターム』などのデスティン・ダニエル・クレットン。ポジティブな面とネガティブな面の背反二律的な側面をもつ主人公が、ヒーロー的行動を取るドラマ作品を撮る監督で、そんな主人公の側面を物語上で表現するのに長けた監督なのかなと思います。
また、主人公には中国系カナダ人で、ホームコメディドラマなどに出ていたシム・リウを大抜擢。脇を固める面子が豪華で、『インファナル・アフェア』『HERO』などのトニー・レオン、『クレイジー・リッチ!』などのミシェル・ヨー、『フェアウェル』などのオークワフィナが共演します。
MCU作品の中で最大級に好き!まず何が素晴らしかったって、MCU作品の中でも頭抜けるんじゃないかと思うアクションシーン。
基本的には中国武術を魅せる方向に進化させた武侠映画、いわゆるカンフー映画の系譜にあるアクションがベースなんですが、そのアクションの中でも様々なベクトルでの現代アップデート版をしっかり見せてくれています。
少林拳に代表される剛拳と、太極拳に代表される柔拳がしっかり分けて描かれていたり、もろにジャッキーアクション的なドタバタアクションがあったと思えば、チャウ・シンチーの『カンフーハッスル』やチャン・イーモウ『HERO』のようなカンフーアクションをVFXによってファンタジーに拡張したアクションがあったり、いわゆるカンフーアクション映画のあらゆる旨みをアップデートしてくれています。
更にそのアクション自体が楽しいってのもありつつ、それを決してサービスとして展開してるのではなく、ストーリー上の必然として多様性が必然的に発生しているように描かれてるのが、本当に素晴らしい。しかも、それが派手になっていく方向にドライブしていく為、テンションもずっと上がって行く方向に動くんですよね。
人物造形や配置、そこから展開されるストーリーが、盛り上がる順番でカンフーアクションの歴史をオマージュしながら回収していく...そりゃ面白いわ!そんな中に出てくるのが、「テン・リングス」という武器。
いやまじ、
この武器の使い方考えた人天才!?この武器の登場頻度が、カンフーアクションのドライブしていく感じと重なって、テンション爆上げ。使い方が使う人によって変わるって言うのも、フレッシュさが持続するって意味でも、キャラクター性を強めるって意味でも、抜群に効いています。
そんなアクションに燃えながらも、実は今作で最も心が揺れたのが、ドラマと内面描写なんですよね。
本作は「家族」を描いた話で、その中で「ヒーローサイド」と「ヴィランサイド」に分かれてしまうって所が、物語背景になっているんですが、どちらサイドも凄い納得できる様な描き方をされているんです。何故「ヴィランサイド」の彼が盲信するのかも、その理由が凄い納得できるんでよすね。
そこには、キャラクター造形の描き方が秀逸だってのがあるんですが、序盤はあえて表面上の事しかわからなかったって所から、絶妙なタイミングで次第に過去を含めて背景が紐解かれて行く事で、
ヒーローとヴィラン全方位的に共感を隠し得ない。クライマックスはアクションのドライブと重なって、全員の目線で感情が入っちゃって、思わず泣いてしまいました。
後は、シャン・チー自身もキャラクター性もすごい良くて、「自己顕示欲」などの社会的欲求は全く無く、「善」と「悪」の要素を自分の中に持ってる事を認識している...
真の強さを持つ等身大な人物造形が大好き。新しく推しのヒーローが出てきましたよ。
そんなキャラクター性による、オフビートな抜けた展開も好きだし、トニーレオンやミシェル・ヨーはめちゃくちゃカッコ良く、オークワフィナのシャンチーとの掛け合いも最高。
これからのMCUが更に楽しみになりました!
オススメ!!
- 2021/09/17(金) 13:57:47|
- 2021年公開映画
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一級品のタイムリミットスリラー
『オールド』
~あらすじ~バカンスを過ごすため美しいビーチを訪れ、それぞれに楽しいひと時を過ごすキャパ一家。そのうち息子のトレントの姿が見えなくなり、捜してみると彼は6歳の子供から青年(アレックス・ウルフ)へと成長した姿で現れ、11歳の娘マドックスも大人の女性(トーマシン・マッケンジー)に変貌していた。不可解な事態に困惑する一家は、それぞれが急速に年老いていることに気付く。しかしビーチから逃げようとすると意識を失なってしまい、彼らは謎めいた空間から脱出できなくなる。
9/10★★★★★☆☆☆☆以下 レビュー(核心のネタバレなし)『シックス・センス』『スプリット』などのM・ナイト・シャマラン監督によるサバイバルスリラー。
世の中を斜に構えた世界観とそれを活かした捻りの効いたストーリー、強烈なキャラクター、独特の演出スタイルと、個性的な作風が特徴の監督。どうしても「どんでん返し」のイメージが先行しがちですが、あくまでこの監督がよく使う手段でして、あくまで
捻れた世界観の面白さと、その中だからこその人間模様やドラマが特徴の監督だと思います。
そんなシャマラン監督が、グラフィックノベルの原作を元に、自ら映画用に脚本を書いたのが、本作になります。ポスタービジュアルから、傑作の予感がプンプンしていました。
忘れられない映画体験まず本作で強調しいのが、宣伝で推されるような「サスペンス」や「謎解き」、もっと言えばシャマラン映画で安直に想像しそうな「どんでん返し」みたいな所が、面白い映画ではありません。あくまで本作ではその要素はおまけや蛇足に過ぎず、その過程で展開される内容にこそ面白さが凝縮された映画な為、期待するものによっては拍子抜けするかもしれません。
バカンスに来た家族とその他一向が、脱出できないプライベートビーチという閉鎖空間の中で、急速に年老いていくタイムリミットスリラーが展開される...
この映画最大の特徴は、そんな
限定空間×タイムリミットの中に、社会の縮図を圧縮する事によって引き起こす、混沌と混乱、カオスな状況が五月雨式に襲いかかる所にあります。
具体的な内容は是非劇場で体験して頂きたいのでさご、時間が進んでいくに連れて生じる焦り、あらわになっている本性、加齢とともに見え始める肉体的な変化...それらが連鎖反応を起こす事によって、「あっ!?」「まじか...」「最悪...なんだけど最高...」って展開が文字通り絶え間なく次から次へと襲いかかってくる、そんな目を離せない映画になっています。
その混沌とした状況を表現するのに、あらゆる要素が有機的に機能していて、特に印象的なのが独特のカメラワークです。普通の映画じゃとり得ないような、飛び飛びのカメラワークをしていて、それが全体の空間認識を難しくしていて混沌を言い当てていたり、見せそうで見せないで「嫌な予感」を引っ張る撮り方もめちゃくちゃハマってると感じました。
さらに、複数の人物が登場する中で、人物造形の描き方、置き方もめちゃくちゃハマっています。
パニックを連鎖的に引き起こす為に人物造形が凄い有機的に機能している為、取ってつけた展開ではなく、しっかり必然的に結末に向かって行ったように思わせてくれるようになってます。更にそんな人物造形が、この映画の全貌の真相に繋がってたりする隙のなさで。失礼ながら本当にシャマランの映画?とすら思ってしまいました。
この映画の作りとして、
「有限の時間」や「限定的な空間」の中に、「社会の構図を詰め込んだ限定的な人々」が閉じ込めらて、「時間を圧縮して人々が変化して行く」という構成が、映画そのものの特性を言い当てています。つまり、
「普段映画を見ている立場の人達が、映画の中に閉じ込められて、映画のルールで物語が進んでいく」という、メタ的な感覚を感じる映画になっているんですよね。映画の時間のマジックの特性を拡大利用してタイムスリラーとして機能させたシャマランマジックが、唯一無二の映画体験を味あわせてくれました。
めちゃくちゃオススメです!!
- 2021/09/07(火) 15:24:49|
- 2021年公開映画
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自分もモブキャラ?否、固定概念に縛られるな。
『フリーガイ』
~あらすじ~銀行の窓口係ガイ(ライアン・レイノルズ)は、平凡で退屈な毎日だと感じる一方で、連日強盗に襲われていた。疑問を抱いた彼は、襲ってきた銀行強盗に反撃を試みると撃退でき、さらに強盗から奪った眼鏡を掛けると、街の至るところにこれまで見たことのなかったアイテムやミッション、謎めいた数値があった。やがてガイは、自分がいる世界はビデオゲームの中で自身がモブキャラであることを知り、愛する女性と街の平和を守ろうと正義のヒーローを目指す。(シネマトゥデイ引用)
9/10★★★★★☆☆☆☆以下 レビュー(核心のネタバレなし)ソーシャルゲームのモブキャラが自我を認識する!?
そんなぶっ飛んだ着想映画化のメガホンをとるのが、『リアル・スティール』『ナイト ミュージアム』シリーズ、『インターンシップ』などのショーン・レヴィ監督。SF設定を組み入れながら等身大の男性を描く作品が多く、
良質なコメディ風味なエンタメ作品を撮る監督ですね。
脚本は、『クリスマス・クロニクル』や『アダムス・ファミリー(2019)』のマット・リーバマン。こちらもコメディ風味のエンタメ作品を多く手掛けており、非常に得意領域が近しい監督と脚本のタッグになります。
ゲームの銀行窓口役として主演を務めるのが『デッドプール』シリーズなどのライアン・レイノルズ。
豊かな表情がめちゃくちゃ魅力的で、大好きな俳優さんです。また『マイティ・ソー バトルロイヤル』や『ジョジョ・ラビット』の監督で出演もするタイカ・ワイティティが個性的なゲーム会社の社長で出演するなど、魅力的な面々が脇を固めます。
この作品、完璧じゃない?まず何が面白いって、
ソーシャルゲームのモブキャラが自我を認識する...
テクノロジー的にもドンピシャ今の時代だから発想し得た種を、非現実を体験できる映画描写として超絶魅力的に表現出来ている所。ゲーム内のモブキャラの視点で始まるんだけど、彼自身は生きている感覚がありつつ、周りで起きるめちゃくちゃな展開を「そういう物」として受け入れてる...我々の世界ではあり得ないんだけど、「こういう世界があって、ずっとその中で生きていれば、確かに受け入れるかも」という納得度が凄いあって、そんな
ゲームキャラから見た「この世界の日常」を体験出来ている感覚がめちゃくちゃ楽しい。さらに言うと、我々はこれをゲームの中だと分かって観ている。だからこそ得られる楽しみも随所に散りばめられてて、「ソーシャルゲームでこんな行動取っちゃうよね」って行動をゲーム内のキャラクター目線で見るってのも凄い楽しかったり、ゲーム内創作空間ならではのオマージュ(よっ!ディズニー!!)もすげぇ楽しいんですよね。
そんなこの映画の突出している所が、もう一つ平行して物語が展開される、「ゲームの外=現実社会」との交差にあります。
モブキャラである主人公はこのゲーム内の世界しか知らない訳ですが、そこでこのゲームをプレイする女性プレイヤーキャラと交流が生まれる...というか恋をします。そのプレイヤーキャラには、当然現実社会側に操作する人がいて、彼女はこのゲームの設計に関係する人物で...その彼女を通して進められる
現実世界側の物語とゲーム内の主人公目線の物語が、リンクして進められて行くんですが、そのリンクのさせ方が神ががっているんです。「このゲームの設計の構造」という要素が大きく絡んでいて、それが現実世界の敵対関係と、ゲーム内のキャラ造形の納得度や世界観の危うさを紐付けてて、一方が他方へ影響を与えながら双方の物語がめちゃくちゃ豊かに動きます。もちろん、現実世界とゲーム世界の視点が変わる事で生じるオフビートギャグも最高of最高。
ゲーム内のキャラの成長が、さり気なく現実世界にも通じるメッセージになって着地する隙のなさ。
そしてライアン・レイノルズ!お茶目で間抜けで純粋な表情がとにかく可愛いくハマり役!!
リアル世界との連動を活かした物語展開や細部のワクワク驚き演出など、楽しさ気づき優しさに満ちた隙のない映画に構築できてるのが本当素晴らし過ぎる。
- 2021/09/01(水) 12:15:43|
- 2021年公開映画
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