シネマ・ジャンプストリート

劇場公開映画を中心にレビュー 映画の良さと個人的感想を。

☆6『ソー:ラブ&サンダー』

『ソー:ラブ&サンダー』



~あらすじ~
壮絶なバトルの末、宇宙に旅立ったソー(クリス・ヘムズワース)は、すっかり戦いから遠ざかっていた。ある日、神殺しをもくろむ強敵ゴア(クリスチャン・ベイル)が出現し、ソーと新たに王となったヴァルキリー(テッサ・トンプソン)が応戦するものの、ゴアの前に全く歯が立たなかった。そこへマイティ・ソーのコスチュームをまとったソーの元恋人ジェーン(ナタリー・ポートマン)が現れ、ソーとヴァルキリーに協力する。
(シネマトゥデイ引用)




6/10★★★★★☆

以下 レビュー(ネタバレなしです!!)

【作品背景】

『アベンジャーズ』シリーズなどマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の29作目になる本作。

北欧神話の神をベースにしたヒーロー、「マイティ・ソー」の単独作としては、ユニバース中最多の4作品目となるのが本作です。

前作『マイティ・ソー バトルロワイヤル』が2017年に公開されて以来の単独作で、MCUアッセンブル作品であり一つの集大成であった『アベンジャーズ/エンドゲーム』後、いわゆるフェーズ4の作品としてははじめての作品です。

監督を務めるのは、『マイティ・ソー バトルロワイヤル』に引き続き、タイカ・ワイティティ監督。
『ジョジョ・ラビット』でオスカーの候補に入るなど、ハリウッドでも注目されている監督で、重たいテーマや背景の中でドタバタコメディをする作品が多く、『ジョジョ・ラビット』では戦時下の子供の空想を題材にする事で、コミカルにする程辛いという、多層的な傑作を生み出しました。

前作、『マイティ・ソー バトルロワイヤル』では、北欧神話を地でいく馬鹿っぽさをコミカルに描きつつ、それを突き抜けるとめちゃくちゃ上がるって所と、「国とは!?」という問いかけを突き抜ける所が連鎖して、非常に良かった。

また本作は、2013年のダーク・ワールド以来に、ナタリー・ポートマンが、ソーの元カノ、かつ女版マイティ・ソーとして帰ってくるのも、大注目でした。




【感想(ネタバレなし)】


本作は、前作のバトルロイヤルやアベンジャーズ インフィニテ・ウォーや、エンドゲームを通して、色々なものを失ってきた、守るべき者を守れず、「神」としてのアイデンティティを喪失しているソーが、自分探しに出るところから始まります。

そこに絡んでくるのが、全知全能の神であるゼウスを中心にした「神々」と「神々に裏切られた者」で、その3社の関係性の描き方が抜群、最高でした。

本作の「神々」は、これまで宇宙の危機に対して何もしてくれなかったという疑問を見事に還元していて、「人類は手段」として利用するし見捨てるし、利己的なかなりクズなキャラクターで描かれます。

一方で、そんな「神」を信仰して、生涯を捧げた結果、飢餓に苦しみ最愛の娘を亡くした上、そんな神の最悪な姿を目撃する事で、「神々」への復讐、神殺しを誓うのが、クリスチャン・ベイル演じるゴアです。

つまり主人公が「神」の1人であるソーであるが故に、「神殺し」のゴアが物語上のヴィランの立ち位置になるんですが、「神々」の言動があまりに最悪で、見方によってはゴアが「神々」から人類を解放するヒーローにも見えるのが、この複雑な関係性がフレッシュで良かったですし、それを体現するクリスチャン・ベイルの演技も素晴らしかったと思います。

そんな相対化された最悪な「神」と「神に裏切られた者」が敵対する中で、「神」なんだけど「神」としてのアイデンティティを喪失しているソーが、「ラブ」を持って人助けをする事で、立場が決める「神」ではなく、行動が決める「ヒーロー」としてのアイデンティティを背中で示す構図が凄い良かったです。


そんな神を相対化する事から始まる話であり、神に裏切られた者の背景や、ソーが背負ってる者含めて、いくらでも重厚にできるけど、それをオフビートギャグ全開で軽くして、めちゃくちゃライトでポップな映画にしてしまうのはワイティティ監督節。

なんですが、、、

本作はストーリー推進と、オフビートギャグが完全に分離していて、そのバランスが余りに悪く、ストーリーが度々止まる感覚に苛まれ、乗れませんでした。

ストーリーの抑揚をコントロールしながら、流れの中で効果的にユーモアを散りばめて、それがキャラクターの魅力にも蓄積され、アクションの爆発力を高めたり、感動にも繋げるのが、『ガーディアンズ・ギャラクシー』のジェームズ・ガン監督なんかは凄い上手いんですが、本作は間の悪さに直結して、「何の時間なんだ...」と感じる事が、あまりに多かったですね。

壮大な設定に対して舞台が限定される事も含めて、悪い意味で二次創作感が目立ってる映画になってるなと感じました。

だだ、そういった間の悪さを全く感じず、壮大でポップな映画としてかなり楽しめたって方も多くいて、評価は二分している印象なので、是非見て頂いて感想を教えて頂ければなと思います。


  1. 2022/07/12(火) 19:53:25|
  2. 2022年公開映画
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☆8『リコリス・ピザ』

『リコリス・ピザ』



~あらすじ~
1973年、ハリウッド近郊のサンフェルナンド・バレー。子役として活動する高校生のゲイリー・バレンタイン(クーパー・ホフマン)は、ある日学校にやって来た写真技師アシスタントのアラナ・ケイン(アラナ・ハイム)に一目ぼれする。「運命の出会いだ」と告白してくるゲイリーを、年上のアラナは相手にせず受け流す。その後、食事をするなど共に過ごすうちに二人は距離を縮めるが、ふとしたことですれ違ったり、歩み寄ったりを繰り返していく。
(シネマトゥデイ引用)





8/10★★★★★☆☆☆☆

以下 レビュー(ネタバレなしです!!)

【作品背景】

『ブギーナイツ』、『マグノリア』、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』、『ザ・マスター』などのポール・トーマス・アンダーソン監督による最新作。

若くして世界三大映画祭全てで監督賞を受賞した巨匠の最新作で、いわゆるボーイ・ミーツ・ガールの青春映画になります。

本作の監督、ポール・トーマス・アンダーソン監督は、作家性も強くて、非常にファンが多い監督でもあります。

個人的に捉える彼の作品の特徴ですが、一つはキャラクターの写し方にあるのかなと思っています。

人間の未熟さやそれを隠すが故の空虚さや嘘っぽさを、付かず離れずの距離感で見守る撮り方をする事によって、悲劇と喜劇の絶妙なバランスで人を生々しく映し出す事が非常に優れていて、そんな登場人物が作る物語として、映画の魅力を引き立たせます。

また、行き当たりばったり的なキャラクターの行動を起点にしたストーリテイリングにも特徴をもち、ストーリーの向かう先が分からない、のらりくらり進んでいく所も特徴の一つなのかなと思います。

後は、長回しを活用した独特のカメラワークや、70年代や80年代の時代性やカルチャーをビビットに捉りこむセンス含めて、ポール・トーマス・アンダーソン節と言えるのかなと思います。

そんなポール・トーマス・アンダーソン監督は、彼の作品によく出演するお馴染みの俳優を起用する事が多いのですが、本作はそういった演者は豪華に脇を固めて、アラナ・ハイムとクーパー・ホフマンのフレッシュな俳優がダブル主演で青春劇を演じます。

特にクーパー・ホフマンは、監督の作品によく出ていて46歳の若さで亡くなったオスカー俳優のフィリップ・シーモア・ホフマンさんの息子という事で、かなり注目されています。



【感想(ネタバレなし)】


ポール・トーマス・アンダーソン監督の、そういったのらりくらりとした作風が、個人的にはあまりアジャストしてこなかったんですが、本作はかなり好きな映画でした。

というのも、ボーイ・ミーツ・ガール物という事で、のらりくらりの中でも向かっていく方向というのは明確で、彼の過去作の中でもかなり見やすい作品になってるとは思います。

とはいえ、だだのティーンエイジャーすれ違い恋愛物と思うなかれ。

本作は、25歳アラナと15歳ゲイリーの約10歳の歳の差の恋愛で、2人ともかなりクセあり、訳ありなんですよ。

特に25歳のアラナは、自意識が非常に強く、中身が伴わないのに外見的要素に惹かれて影響を受けて勘違いして、結果うまくいかなければ周囲に当たるという、子供っぽさ、未熟さを非常に感じさせる女性です。

逆に15歳のゲイリーは、イケイケなビジネススキル、もっというと実行するスキルは天才的で、年齢不相応な要素をもっています。

ただ、そこにある思慮深さや、想像力なんかは、年齢相応で、そのギャップが問題を起こしたりなんかもします。

そんな2人の年齢不相応な部分や、年齢相当の部分、この両面により、ありあない歳の差の恋愛を成り立たせたり、逆に遠ざけたり、右往左往する恋愛関係を絶妙に成り立たせてて、面白いなと思いました。


そんな2人、あるいは何方かの感情に寄り添うように撮られる訳ではなく、少し引いて傍観者のような立場から見守る視点で撮られています。

だからこそ、すれ違いを生む行動の一つ一つの未成熟さが際立ち、生々しくて痛々しい、それでいて可愛らしい...こんな恋愛、めんどくさい...けも何処か懐かしいなと思わせてくれる映画になっていました。


本作も70年代の街並みやファッション、音楽、映画を含めたカルチャー、ゲイリーのビジネスに使うキーアイテムのチョイスなど、時代の雰囲気を捉えるセンスは、流石だなと感じました。

そのあたり、タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』と地繋ぎ感はすごく感じました。

また本作の出演者、豪華な俳優陣など総じて良かったんですが、中でも初長編映画で主演のアラナ・ハイムさんの、実在感はめちゃくちゃ良かったです。

ポール・トーマス・アンダーソン節を浴びながら、見やすい映画になっていて、入門作品として最適な作品なんじゃないかと思います。

おススメです!!
  1. 2022/07/06(水) 13:54:20|
  2. 2022年公開映画
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