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85『ハクソー・リッジ』グゥの音も出ない正しさ

メル・ギブソン監督最新作は、戦争映画の新たな鉄板!

『ハクソー・リッジ』



~あらすじ~
第2次世界大戦中、デズモンド(アンドリュー・ガーフィールド)は、人を殺してはいけないという信念を持ち、軍隊に入ってもその意思を変えようとしなかった。彼は、人の命を奪うことを禁ずる宗教の教えを守ろうとするが、最終的に軍法会議にかけられる。その後、妻(テリーサ・パーマー)と父(ヒューゴ・ウィーヴィング)の尽力により、デズモンドは武器の携行なしに戦場に向かうことを許可され……。
(シネマトゥデイ引用)







☆☆☆☆☆☆☆☆(85/100)
以下 レビュー(核心のネタバレなし)

メルギブソン監督の最新作!

あの『アポカリプト』以来、約10年ぶりに映画監督として帰ってきました。
おかえり、メルギブ。
世界中の映画ファンの願いは、もっともっとメルギブ監督作品を見たいはず...
変な問題はもう起こさないでおくれ...

問題児でありながら、超優等生な映画人の最新作。
第二次世界大戦で最大の難戦場とも言われる沖縄前田高知での壮絶な激闘において、狂ったように誰一人殺さず救い続けた衛生兵の実話の物語です。


この映画は、後半の壮絶な戦争シーンが取りざたされていますが、前半部の丁寧に積み重ねていくドラマパートがあってこそ。

「汝、殺すべからず」
これ自体は当然の事だが、戦争を始めとするあらゆる不条理の前では、この考えは以外と脆い。
狂気と呼べるレベルまで頑なに守り続けていく信念、そしてその強さを創り出す源の信仰。
デズモンドはいかにその境地に辿り着いたのかのエピソードから始まり、
「人を殺さない」信念とは正反対であるはずの軍隊に、何故自らの入隊したのか...
伴侶となる女性との出会いや、両親が抱える戦争への闇など、戦場シーンがあるなんて事を忘れるほど、丁寧なドラマが進行していきます。


この段階では「戯言」、「綺麗事」であった彼の信念ですが、
中盤の『フルメタル・ジャケット』ばりな軍事訓練で、周りにいびられ、軍曹にこっ酷く怒られようが、決して銃を「持ちすらしない」彼の執拗さに、見ている我々も「戦争に行くのにどうかしている...」、彼が間違っていると思わざる得なくなってしまいます。
軍の統率も取れなくなるし、上官としてはたまったもんじゃないですよね。
(ここで生まれる視点が、最終的に溜飲が下がるのに効いてくるのだから...凄すぎる!)

銃すら持たない彼は、当然軍から排除されそうになる訳ですが...
父子の物語として、クライマックス級に熱くなる展開。
進むべきでない道だろうが、覚悟を受け入れ、背中を押す事が、最大の愛情だったりする。



そして、後半はいざ戦場へ。
断崖絶壁ハクソー・リッジを登った直後、急に開始のゴングが鳴ったかのように飛び込んできた映像が、本当きつかった...
「さあ、ここから先は、ただの殺し合いだぞ」と。

高地で行われる戦闘という事もあり、戦車も使えず、軍の統率もとりにくく、敵味方入り乱れた乱戦になっていきます。
前半で丁寧に描写された仲間が、上官が、残酷に破壊されていく様子が余りに強烈...
下半身が爆破されて助けを求める人なんかを見ると、父親が出兵前に言っていた「簡単に死ねると思うなよ」という言葉が脳裏に浮かびます。
そんな戦争の中で、多少の装備の意味のなさを痛感するのが、銃弾がヘルメットを貫通して脳天を撃ち抜くシーン。
聞いた事がないような「キーン」という響く音が印象的で、それは最後まで頭から離れません。


そんな人を殺す行為を正当化する戦争の中で、デズモンドは驚くべき信念を体現していきます。

絶望的な状況にいる怪我人も見捨てず、ひたすら手当をして、ベース地点へと送り返す...
それはまるで狂気に満ちたように。
あまりに命が消費される現実を前に、無力感から一度は信念が揺らぎますが、助けを呼ぶ声が彼の信念を盛り立て、そして奇跡を起こし始めます。
どんな映画もそうだが、人が英雄たり得る瞬間は、敵を殺す行為ではなく、人命を救う行為のみ。
そんな圧倒的な正しさを、圧倒的な説得力を持って描かれるのだから、ぐうの音も出ません。



今回、多くの残酷描写に関わらず、PG-12に留めた映倫の仕事は、本当称賛に値します。
中高生こそ、何かを感じ、トラウマとするべき、そんな映画です。

アラサーの私も考えざるえない物が多くありました。
一見するの正しく見える世論や周囲の声。
いくら甘いと言われようが、綺麗事こそが理想で、それを主張する勇気が必要なのかもしれません。
攻撃されそうだから攻撃する?
そんな戦争の論理冗談じゃない。
今の情勢に対しての、見事なカウンターパンチだと感じました。

また、宗教がもたらす強さ、あやうさも非常に考えさせられました。
最も尊い行為に対して、強い助けとなり得る宗教も、捨てたもんじゃない。
しかし一方で、一方通行の正義に対しても強さを与えてしまう...
複雑ですよね。



戦争の圧倒的な不条理さを描きながらも、でも信じていたい正しさを描く。
戦争映画の新たな鉄板を、是非劇場で!!




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テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

  1. 2017/07/01(土) 16:56:05|
  2. 2017年公開映画
  3. | トラックバック:11
  4. | コメント:2

コメント

こんにちは

ご訪問ありがとうございました。
今回「パッション」や「アポカリプト」と違って理論整然としているのは、自分で脚本を書いてないからでしょうね。
だから客観的な視点で描けているんだと思います。
傑作「ブレイブハート」もそうでした。
まあ狂気のメル監督の魅力も捨てがたいんですが。
  1. 2017/07/04(火) 16:39:22 |
  2. URL |
  3. ノラネコ #xHucOE.I
  4. [ 編集 ]

Re: こんにちは

コメント、ありがとうございます。

なるほど...そういう背景が影響しているんですね。
次回作はどんな題材を選ぶのでしょうか、楽しみです。
どちらにしても、もう干されるような事はないようにお願いしたいですね...
  1. 2017/07/05(水) 19:28:18 |
  2. URL |
  3. 西木寸 #-
  4. [ 編集 ]

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